【QUICK Market Eyes 川口 究、片平 正二】新型コロナウイルス(COVID-19)に感染したトランプ大統領の主治医らは4日の記者会見で、トランプ氏が5日にも退院する可能性があると説明した(参考記事:MKE8033)。トランプ大統領は4日夕方には病院を出て、車の中から支持者に手を振り健在をアピールしたという。トランプ氏の病状が比較的落ち着いているのなら、株式市場の不透明は後退しそうだ。市場では様々な見方が浮上している。
■経済対策がまとまりやすくなり債券安・株高に=三菱モルガン証
今後の見通しについて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は5日付のリポートで「トランプ大統領は今回のコロナ感染で『多くのことを学んだ』と語っており、今後のコロナ対応が変化、地方政府支援等について柔軟なスタンスに変われば、追加財政支援策がまとまりやすくなり、債券安・株高材料となる」と指摘した。リポートでは、与野党協議での対立点として①追加失業保険給付(funding for unemployment insurance)、②学校・地方政府支援(funding for schools and state and local government)、③子供や低所得者向けの税控除(Child Tax and Earned Income Tax Credit)、④コロナ検査費用に関する制約(restrictions on use of testing money)、⑤裁量的支出($44 billion gap on appropriated discretionary funding)――が議論されているとしながら、民主党のペロシ下院議長や共和党のマコネル上院院内総務から合意を示唆する発言が出ていることを踏まえ、「トランプ大統領のコロナ感染の有無が後押ししたかは定かではないが、与野党の歩み寄りが進みそうな雰囲気が幾分、高まっているのは事実のようだ」と指摘。その上で「規模は流動的も追加財政パッケージが実現すれば金利上昇、無理なら低下、と政治色の強い相場展開だが、バイアスは金利上昇方向と想定したい」とみていた。
■市場は徐々にリスク・ポジティブに=野村証券
ノムラ・セキュリティーズは4日付のリポートで「いくつかのシナリオが考えられ、選挙の不確実性はさらに増大した。短期的に市場にとって最も重要な要素はトランプ大統領の健康だろう。市場は、民主党が上院を掌握すると同時に、バイデン氏が勝利する可能性が高いと判断し始める可能性が高い」と指摘した。
また別のシナリオとしては、トランプ氏が直ぐに回復し、有権者の支持を再活性化することに成功し、健康を取り戻す前提としてもテレビ討論会前の情勢に戻るとして依然として情勢は不透明感があると指摘。新型コロナに伴う追加の経済対策が米議会で超党派の支持を得られていないこと、ブレグジットなどの不透明要因を挙げていた。
1つのリスクとして米中関係のさらなる悪化も挙げている。新型コロナウイルス感染症の流行に関し、トランプ大統領これまで中国を強く批判してきたことから、「自身の感染によって、批判のトーンがさらに強くなる可能性がある」という。その場合、中国がこれに反発するとみられ、「特に、10月26~29日第19期第5回全体会議(五中全会)が開かれるため、中国側の態度が硬化しやすい点に注意したい」と指摘した。
■トランプ大統領が選挙戦を続けられなければ大統領候補はペンス副大統領に=JPモルガン
JPモルガン証券は5日付のリポートで為替相場に関して「円買いは現職の大統領が感染したことによる目先の混乱に対する懸念。中長期的にはブルーウエーブの可能性の高まりを受けた動きに注目」と指摘した。2日のリスクオフ的な動きは、現職の大統領が新型コロナに感染したことによる目先の混乱に対する懸念を受けた一時的なものと考えられ、「大統領選挙の結果に対する予想の変化によるものではないだろう」と指摘。
その上で「もともと、オプション市場ではドル円は大統領選挙翌日に最も変動することが折り込まれている通貨ペアの一つであり、今後も米大統領選挙関連の短期的な混乱に対しては円相場の動きが大きくなるかもしれない」としながら、「今後、トランプ大統領の容体が早期に回復すれば、影響は最小限に止められるかもしれない。しかし容体が再び悪化し、ペンス副大統領が代行を努めざるを得ない状況となった場合、マーケットに対する影響は更に大きくなり、もう一段の円買いとなる可能性が出てくる」とも指摘した。
トランプ大統領が選挙戦を続けられなくなった場合、「共和党の大統領候補はペンス副大統領ということになる」とし、7日に実施される副大統領候補の討論会はこうした意味でも注目とみていた。
さらに中長期的な関心として、「大統領選の結果を受けて樹立される次期政権がマクロ経済に与える影響を見ていくべきであろう。バイデン氏勝利、上院でも民主党が過半数を奪還し、ブルーウエーブ(民主党の大統領・上下両院ともに民主党が過半数)となる確率が高まれば、ドル下落、新興国通貨(特にアジア)の上昇、米株上昇(不透明感の払拭と財政拡大期待)、米イールド・カーブのスティープ化(財政拡大期待)の動きとなることが予想される」とも指摘。ただスティープニングに関しては「既にかなりポジションが積み上がっており、今後さらにスティープ化する余地は大きくないかもしれない」ともみていた。
■バイデン氏が勝利でも、ネガティブな反応は長期化しない可能性=SMBC日興
SMBC日興証券は5日付のリポートで「幸いにも今のところ容体は回復方向のようである。これの米大統領選への 影響は、ホワイトハウス要人にも感染が広がったことで、政権の危機管理能力の欠如が露呈した一方、衆目がトランプ氏の容体に集まる中、早期回復を遂げればトランプ氏の『タフさ』を印象付ける側面もあるだろう」と指摘した。その上で「ただし、大統領選まで1カ月を切った中でトランプ氏の選挙活動がストップすることに加えて、トランプ氏の選挙対策の立て直しを図っていた選挙対策本部長ビル・ステピエン氏の感染も確認された」ことに着目し、「現時点ではバイデン氏が勝利する可能性の方が高いと判断せざるを得ないだろう」と指摘。
さらにテレビ討論会後の市場の反応を踏まえ、「バイデン氏が勝利の場合でも、短期的な株式市場の不安定さは別としてネガティブな反応は長期化しない可能性があるだろう」とも指摘。 第1に、米国景気は多少の鈍化の兆しがあるとはいえ、基本的には回復基調にあるとしつつ、「第2に、バイデンシナリオの場合は先行きの不透明感が強まるのは確かだが、足元の米国景気が回復方向との認識が共有されている下では、決定的な売り要因になるかの判断を取りづらい」とし、「短期的な市場の反応は不確かだが、下がったとしても長期化はしないだろう」と比較的冷静に見ていた。