米長期金利の指標である10年物国債利回りは10月5日に上昇(価格は下落)し、0.78%と6月中旬以来ほぼ3カ月半ぶりの高水準を付けた。トランプ米大統領の病状への懸念が後退しリスク回避姿勢が和らいだうえ、民主党主導の政権誕生への思惑から財政出動を織り込む債券売りが出始めた。ただ、追加の米経済対策を巡っては不確実性が根強く、金利上昇の勢いは限られそうだ。
■節目抜き上昇圧力
10年債利回りは足元で0.65~0.70%で推移してきたが「テクニカル分析上で節目とされる0.72%を上抜いたため上昇圧力が増し、目先の取引範囲が切り上がった」(BMOキャピタル・マーケッツのジョン・ヒル氏)と指摘された。きっかけは、新型コロナウイルス感染で入院していたトランプ氏が医師団のお墨付きを得て5日夕に退院すると伝わり、投資家心理が改善したことだった。
米大統領選の見通しも金利上昇を促したようだ。大和キャピタル・マーケッツアメリカのパトリック・ジャクソン氏は「バイデン前副大統領の当選と米議会上下両院で民主党が優位に立つ政権の誕生が予想され、大型財政出動に伴う国債増発を見込んだ債券売りが目立ち始めた」と語る。世論調査ではバイデン氏のリードが鮮明だ。州ごとに割り当てられる総勢538人の「選挙人」投票についても、TD証券は5日に賭けサイトなどの予想を踏まえ「民主党の獲得が確実視されるのは233票と当選に必要な270票に迫っており、大統領・上下両院で民主党勝利の現実味が増している」と指摘した。
■「上昇圧力は強まらない」
だが、金利上昇の勢いは続かないとの見方も多い。主因は米経済対策の成立への不透明感だ。民主党のペロシ下院議長と共和党のムニューシン米財務長官は5日も電話で協議を続けたが、合意に至らなかった。対策の規模で民主党が2.2兆ドル、共和党は1.6兆ドルと隔たりが埋まらない。JPモルガンのマシュー・ジョゾフ氏は「大統領選の後どころか、年内成立の可能性も薄れており、金利の下振れリスクだ」とみる。
パンセオン・マクロエコノミクスのイアン・シェファードソン氏は「来年2月まで成立しない可能性がある」という。大統領選後に民主党優勢の政権が成立すれば、現在の上院で優勢を占める共和党が断固として民主党案を阻止する可能性がある、との見立てだ。
「追加の経済対策が成立しない限り、金利の上昇圧力は強まらない」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)。5日発表の9月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況感指数は市場予想以上に改善し、金利上昇を促す一因となった。だが、コロナ感染の再拡大で米景気の先行き不透明は増している。「景気や政局の不確実性を背景に、年内の10年債利回りの上昇は0.80%程度にとどまる」(大和のジャクソン氏)と、5日の金利上昇については冷静な見方が多かった。(NQNニューヨーク 古江敦子)
<金融用語>
ISM非製造業景況感指数とは
全米供給管理協会(ISM=Institute for Supply Management)が算出する非製造業の景況感を示す指数のひとつで、毎月第3営業日に発表される。毎月発表される米国の主要指標の中で最も早い「ISM製造業景況感指数(毎月第1営業日発表)」とともに、米国の景気先行指標として注目されている。 非製造業(375社以上)の購買・供給管理の責任者を対象に、各企業の受注や在庫、価格など10項目についてアンケート調査を実施。「良くなっている」、「同じ」、「悪くなっている」の三者択一の回答結果を集計し、季節調整を加えた事業活動・新規受注・雇用・入荷遅延の4つの指数をもとに、ISM非製造業景況感の総合指数を算出する。 ISM製造業景況感指数と同様に、0から100までのパーセンテージで表し、50%を景気の拡大・後退の分岐点、50%を上回ると景気拡大、50%を下回ると景気後退を示す。