【日経QUICKニュース(NQN)寺沢維洋】ホームセンター大手のDCMホールディングス(3050)の株価が軟調だ。10月8日に一時、前日比32円(2.2%)安の1440円まで下落した。7日発表の9月の既存店売上高は前年同月比11.6%減と2桁減収で、8カ月ぶりに前年実績を下回った。2019年9月は消費増税前の駆け込み需要が発生しており、前年と比べた減少は織り込み済みともいえるが、市場は構造的な成長の停滞を警戒し始めている。
■「モノ消費」から「コト消費」へ
DCMは新型コロナウイルス感染拡大に伴う「巣ごもり需要」の発生の恩恵を受け、株価は7日時点で前年末比38%高となっていた。ただ、国内で新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつあることや、景気刺激策「Go To キャンペーン」の本格化を背景に、足元で個人の消費意欲は旅行や飲食に向かっている。
きょうはコロナ禍で「巣ごもり需要」の恩恵を受けた小売銘柄の多くで下げが目立つ。同業のケーヨー(8168)やコーナン商事(7516)も軟調で、100円ショップのセリア(JQ、2782)や家具関連の良品計画(7453)、ベガコーポレーション(マザーズ、3542)なども下げた。市場では「在宅勤務など生活環境の変化に伴う日用雑貨やDIY関連商品の需要の伸びには一服感が見えている」(国内証券のアナリスト)との声がある。

観光庁によると、「Go To トラベル」事業では7月22日~9月15日に延べ1689万人が割引支援を利用したという。10月から東京発着の旅行が支援対象に追加され、こうした追い風を受けてオリエンタルランド(4661)や富士急行(9010)は続伸した。予約サイトを手掛ける楽天(4755)やZホールディングス(4689)なども高い。

DCMなどの小売業は、19年10月は増税後の消費の落ち込みでハードルが下がっている分、売り上げは今月にも再びプラスに戻るとみられている。ただ、コロナワクチンへの開発期待が高まるなかで「コロナ前から続いていた『モノ消費』から『コト消費』への変化のトレンドが復活しつつある」(楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジスト)ことが気がかりだ。
■成長施策面での後れ
DCMの経営陣も手をこまぬいているわけではない。地方を中心に人口減少が進むなか、2日には首都圏に強みを持つ島忠(8184)を完全子会社化すると発表した。これまで手薄だった家具などの商品群を補強するほか、利益率の高いプライベートブランド(PB)の開発にも共同で取り組む。
DCMのPBR(株価純資産倍率)は足元で1倍を下回っており、現在の株価水準は割安ではある。島忠との商圏の重複が少ないことや、PB商品の強化などの戦略の方向性は市場でおおむね好意的に受け止められている。ただ、「電子商取引(EC)やアジア諸国への展開といった小売業のオーソドックスな成長施策の面で後れをとっており、積極的には買いにくい」(窪田氏)ともみられており、懸念を払拭し切れていない。
ホームセンターを含む小売銘柄には巣ごもり需要を背景に年初来高値を更新してきたものも少なくない。消費者の志向が再び変化しつつあり、株価の勢いを維持することは簡単でなさそうだ。
<金融用語>
PBRとは
Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。 なお、一株当たり純資産(BPS)は純資産(株主資本)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。