【日経QUICKニュース(NQN)寺沢維洋】ソフトバンクグループ(SBG、9984)が「特別買収目的会社(SPAC)」の設立を計画していることが10月13日、明らかになった。SBGは今後2週間で概要を固めるという。SPACは上場時に事業の実体を持たない「空箱」で、将来有望な会社を見つけて買収するのが目的だ。13日のSBG株は一時、前日比118円(1.6%)高の7300円まで買われ年初来高値を更新したが、終値は124円(1.7%)安の7058円だった。SBGの「空箱」をどうみるか、市場関係者に聞いた。
■「今のうちに」とブームに乗った 株価への影響薄い
菊池真・ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表取締役
世界各国が金融緩和に走り、リスクマネーがあふれている今のうちに、株式市場で資金を調達しておこうという考えだろう。SPACを通じての上場は近年活況を呈しており、SBGもブームに乗る形だ。明るい話ではあるが、(空箱の中身となる)具体的な投資先が決まるまではSBG株への影響は薄いとみる。
もっとも、SPACに対しては現在、米証券取引委員会(SEC)も監視の目を強めつつある。買収される企業は新規株式公開(IPO)の手続きなしで上場できるため、「裏口上場」との批判もある。足元ではSPACを通じて上場した電気自動車(EV)メーカーの米ニコラに、同社の製品について詐欺の疑いが持たれている。将来的には審査などの規制が強化される可能性もあり、そうしたリスクも踏まえてこのタイミングでの設立に動いたのだろう。
■収益源の多角化は評価 目利き力には疑問
川崎朝映・岩井コスモ証券シニアアナリスト
ビジョン・ファンドの2号ファンドの資金調達に苦戦するなか、収益源の拡大に動いているとみられ、その姿勢自体は評価できる。足元ではコロナ禍でまだ確固たる収益基盤を築けていない新興IT企業の評価が高まりにくくなっているため、将来性はあるが実績がない企業でも上場させることができるSPACへの注目が高い。SBGにとっても、1号ファンドの資金調達時に約束した固定配当が重荷となっているいま、規模こそ小さくなるものの株式市場から投資資金を得られることは魅力的だろう。
ただ、SBGの孫正義会長兼社長の目利き力に対する市場の期待はやや剥落している。2019年にはシェアオフィス大手「ウィーワーク」の企業評価が高すぎたと批判を浴び、それ以降も目立った成功例はない。まとまった資金を調達したとしても、魅力的な投資先を見つけるまではSBG株の反応は乏しいだろう。
<金融用語>
リスクマネーとは
リスクをとって高いリターンを狙うヘッジファンドなど、短期売買を中心とした資産運用を行う投資家の資金。先物やオプションなどデリバティブ取引を活用し、レバレッジを効かせた運用を行うことが多い。これに対し、中長期的に安定した資産運用を基本方針とする年金基金や投資信託、生命保険会社などの投資資金をリアルマネーという。 一方、エンジェル(創業間もない企業に資金を提供する個人投資家)やベンチャーキャピタルなどが、ベンチャー企業に対し、投資資金の回収不能リスクを覚悟のうえでその企業の将来性を評価し、提供する資金のことを指す場合もある。