【日経QUICKニュース(NQN)末藤加恵】米大統領選挙が2週間後に迫った。外国為替市場では、今年最大のイベントを前に様子見姿勢の投資家が増え、円相場は方向感に欠ける展開が続く。円・ドル相場の膠着は米大統領選の波乱を見込む市場関係者が多いことの表れでもある。きょう10月19日は33年前にブラックマンデーが起きた1987年10月19日と同じ月曜日。円高を誘うリスクオフの材料が山積するなか、ベテラン市場関係者の脳裏には苦い記憶がよぎる。
■ブラックマンデー
「動意に乏しい為替相場を尻目に、株式市場は過熱しすぎている。なんだかきな臭いですね」――そう話すワカバヤシエフエックスアソシエイツの橋本光正・営業管理部長の脳裏をかすめたのは33年前の記憶だ。
87年10月19日、週明けの米ニューヨーク市場を襲ったのが、後に「ブラックマンデー」と呼ばれる世界的な株価大暴落だ。ドル安回避を目指すという日米欧合意済みの国際協調に綻びが生じているとの見方が一因ともいわれ、ダウ工業株30種平均の下落率は22%を超え、過去最大の下落率を記録した。それから33年後の2020年、市場は新型コロナウイルスという未知のウイルスのまん延におびえ、ダウ平均は3月16日に1日で13%近く急落。ブラックマンデーに続く歴代2位の下落率となった。
ブラックマンデー後に株価は急反発し、とくに日経平均株価はバブルへの階段を駆け上がっていった。コロナ禍のいまも株価は急回復し、この相場展開を「ブラックマンデー型」となぞらえる声も聞かれる。ただバブル崩壊後、日本は長期不況とデフレに陥り、「失われた20年」の間に株価は低迷した。足元では景気不安などのリスク要因を抱えたままの株価上昇に懐疑的な見方は少なくない。ブラックマンデー以降、10月19日が月曜にあたった年は1992年、98年、2009年、15年の4回あった。偶然にすぎないとはいえ、いずれも年末にかけてさえない展開となるケースが目立ってきたことも投資家心理に微妙に影を落とす。
■波乱の芽
コロナ禍での米大統領選となる今年。円高を誘発しかねない波乱の芽があちらこちらで顔を出す。今回の米大統領選では、コロナの感染を防止する目的で、トランプ米大統領が不正を主張する郵便投票の急増が見込まれる。現時点では民主党候補のバイデン前副大統領が優勢との見方が広がるが、選挙は水物。結果が僅差となれば、法廷闘争に発展しかねない。そうなれば「最終的な結果の判明に時間がかかるのは必至で、円相場は短期的に心理的節目の1ドル=100円近辺まで上昇しそう」(みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリスト)と予想する向きもある。
欧州を中心にコロナの感染が再拡大し、各国政府が外出自粛や店舗の営業停止などの規制強化に乗り出している点も気がかりだ。フランスで夜間の外出が原則禁じられたほか、ベルギーではきょう19日から4週間、全国の飲食店が営業停止となる。欧州景気への悪影響は避けられず、ユーロへの売り圧力が強まれば、円・ドル相場の上昇につながる。
不透明要因がいくつも横たわっているだけに、33年前の記憶がふと脳裏をかすめたベテラン市場関係者は少なくないようだ。もちろん当時と現在とでは経済や相場の環境は全く異なるが、もうひと波乱あってもおかしくない。