【QUICK Market Eyes 大野 弘貴、川口 究、池谷 信久】米民主党が大統領選のみならず上下両院の過半数を制する「ブルーウエーブ」シナリオの予想が米市場で強まってきた。バイデン大統領の誕生を見越したマネーの動きが加速するのか。米長期金利の上昇は米株式にとっては重荷になるうえ、テクニカル面では調整リスクも指摘されている。
「ブルーウエーブ」予測を55%に引き上げ、女性と高齢者から強い支持=レイモンド・ジェームズ
レイモンド・ジェームズは19日付リポートで、民主党による大統領・議会選圧勝という「ブルーウエーブ」となる予測を50%から55%に引き上げた。バイデン前副大統領が大統領選で勝利する可能性を65%、民主党が上院で過半数を獲得する可能性は55%を超えるとみている。
上院の選挙では共和党の有する4議席を与野党五分五分とみられるリストに追加した。現在競争の激しさが増している上院13議席の11議席を共和党が、民主党が2議席を占めているとみている。「女性有権者と高齢者からの強い支持が、バイデン議員と民主党議員の票を押し上げている」と分析した。
また、トランプ大統領勝利の予測を35%から30%に引き下げた。ただし世論調査は、「隠れたトランプ有権者」の存在を正確に捉えておらず、間違っている可能性があるという。共和党は、激戦州では民主党よりも多くの有権者を登録しており、トランプ氏の基盤を活性化する戦略は見かけよりもうまく機能しているという。トランプ氏の選挙遊説への復帰は同氏の支持基盤を強化しており、最近の世論調査でバイデン氏をリードする場面もみられ、「今後は(支持率の)引き締めが予想され、トランプ氏に2016年と同様に勢いを与える可能性がある」と今後の展開を注視した。
「ダウ400ドル超下落でも米長期金利は上昇」=SMBC日興
19日の米国市場では、景気対策に係る与野党協議の不調などを背景にダウ工業株30種平均が400ドルを超える下落となった。しかし、米10年債利回りが上昇していることについて、SMBC日興証券の野地慎氏は、「21日の20年債入札に向けたコンセッション」に加え『バイデン氏でもトランプ氏でも財政拡張』もまた意識され始めている」と指摘した。
もっとも、大統領選が終わった直後にバイデン氏がヘルスケア、インフラなど国内支出、社会保障・退職関連などの出費を指示するわけではなく、同様にトランプ氏が大幅な減税に取り組むわけではない。更に2021年かけて決定されると期待される景気対策の財源として発行される米国債の殆どは、当初短期国債となる見通しであることから、「如何なる財政政策が講じられようと、急激に長期・超長期ゾーンの需給が悪化する公算は低い」とも指摘した。
一方、米連邦準備理事会(FRB)は月800億ドルと巨額の国債買入を行っており、米国債利回りは財務省による国債発行とFRBの買い入れによる需給環境によって形成される。野地氏は「財務省は今後の四半期定例入札のたびに発行の長期化」を目論んでいるとみている。加えてFRBは「債券市場をバブル退治のスタビライザーと考えれば、現行の買入を淡々と続けながら、多少の長期金利上昇を歓迎する」とみていた。
S&P500は200日移動平均まで調整も=モルガン
モルガン・スタンレーは19日付の米国株ストラテジーリポートで、先週、S&P500種株価指数は2度にわたって長期抵抗線にあたる3550の上方ブレイクアウトに失敗したことを取り上げた上で、「来年の企業利益の上方修正率が鈍化する中、米財政刺激策に関する合意観測の後退、米大統領選の不確実性、そして新型コロナウイルスの感染第2波は短期的に不確実性を高める」と指摘。
※S&P500指数と200日移動平均線(赤)
これらの不確実性により株式のリスク・プレミアムが頭打ちとなることで、S&P500は200日移動平均(3124)近辺の「より実質的なテクニカルサポートレベルにまで下落する」との見方が示された。