大豆価格は上昇し、2年半ぶりの高値圏に達した。9月末に発表された米四半期在庫の下方修正を受けて上昇していたが、10月9日に発表された米需給報告で、在庫見通しが大幅に引き下げられたためである。
■大豆の平均価格は1,140セントへ
在庫見通し引き下げの要因は、2020-2021年の期初在庫が5,200万ブッシェル減少し5億2,300万ブッシェルに引き下げられたことによる。期初在庫の減少は2019-2020年の工業向け需要が上方修正されたことによるものだ。
また、単収は51.9ブッシェル/エーカーで先月と変わらなかったが、悪天候の影響などで作付け面積が8,310万エーカー(前月比▲70万エーカー)、収穫面積も8,229万エーカー(▲71万エーカー)に引き下げられ、生産見通しが▲4,500万ブッシェル引き下げられた。一方で輸出は堅調であり前月から7,500万ブッシェル引き上げられた。結果、米国の期末在庫は▲1億7,000万ブッシェルの4億6,000万ブッシェルになると予想されている。
これにより、米国の大豆需給率は94.0%と前月の90.6%から3.4%ポイントも上昇することになった。大豆の需給率は価格に対する説明力が高いが、この見通し通りとなれば大豆の2020年平均価格は1,140セント/ブッシェルに上昇することになる。前回のこのコラムでは1,100セントまでの上昇があるとしたが、それよりもさらに価格は上昇する見込みだ。
■中国の輸入増加
輸出の増加は中国の輸入の増加によるものであり、表向きは米中通商合意を遵守するため輸入はおそらく継続すると考えられる。しかし、中国は米国との合意を遵守するためというよりは、自国で必要であるため輸入を増やしている、と考えるほうが適切だろう。
現在の中国の大豆在庫は過去5年の最低水準近辺である。これは2年前に発生した豚熱(豚インフルエンザ)の影響で、豚の飼料向けの需要が減少したため、大豆輸入も減少したことによる。
ただし、中国国内の養豚数は増加に転じていると報じられており、在庫水準の低さを考えると輸入は今後も増加すると考えるのが適切だろう。特に豚肉は中国人にとって重要な肉類であり、この供給不足や価格上昇は治安の不安定化につながりかねない。14億人もの国民を抱える中国政府は歴史的に食品の安定供給に政情が左右される、という事実は無視できない。
■ラニーニャ現象の発生
また、今年はラニーニャ現象の発生が確認されている。通常、エルニーニョ現象発生の後はラニーニャ現象が発生することが多い。エルニーニョ現象の震度が大きいほど、ラニーニャ現象の深度は深くなり、農作物の生産に大きな影響を及ぼす。
幸いなことにエルニーニョ現象の深度が深くなかったため、ラニーニャ現象の悪影響は限定されるというのがメインシナリオであるが、そのようになる保証はない。
■トウモロコシ価格も上昇
大豆価格に上昇バイアスがかかる中では、トウモロコシ価格にも上昇圧力が掛かる。大豆とトウモロコシは生産地が同じであるためより高値で販売できる穀物を農家は選択するためだ。この際農家は、第4四半期(10月~12月)の価格水準で翌年の趣旨を注文するため、この四半期の価格水準が重要となる。
昨年の10-12月期の大豆÷トウモロコシレシオは2.4倍、エタノール向けにトウモロコシ利用が増加した2007年以降の平均が2.5倍、データ取得が可能な全期間の平均が2.44倍であることを考えると、現在の2.7倍は高い。例年通りであれば大豆の作付面積は増加し、トウモロコシ価格が上昇することになるだろう。
ただ作付け意向面積が発表されるまでは大豆価格は強含みやすい。ただ、前回、このコラムで指摘したようにここまでの上昇は投機筋のショートの買戻しと、ロングの積み増しによるものだ。どちらかと言えばロングの新規積み上げの影響が大きい。そのため、大統領選や欧州の政情不安などでリスク回避姿勢が強まるタイミングでの、下落リスクは小さくないと考えている。