【NQNニューヨーク 岩本貴子】外国為替市場でドルが主要通貨に対して弱含んでいる。総合的な通貨の強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)が算出するドル指数はほぼ1カ月ぶりの低水準で推移している。為替市場でも11月に米大統領選や連邦議会選挙でバイデン前副大統領・民主党が勝利するとの見方が広がり、財政赤字拡大への懸念を強めている。
■財政悪化は避けられない
「リスクは2020年末に向けてドルが弱含む方に広がりつつある」。ゴールドマン・サックスは今月上旬のリポートでこう指摘していた。実際、10月21日には対円で一時1ドル=104円台前半とほぼ1カ月ぶりの安値をつけた。
市場では「9月の大統領候補の第1回テレビ討論会以降、ドル売りが広がった」(TD証券)との指摘が目立つ。第1回テレビ討論会をきっかけに、世論調査などで民主党の大統領候補であるバイデン氏の支持率が上昇し、金融市場は大統領選や連邦議会選挙での民主党の勝利に傾きつつある。
バイデン氏はインフラ投資などを含め大規模な財政支出案を示している。すでに米国の財政赤字が拡大している中で、一段の財政悪化は避けられない。米財務省によると2020年会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字は過去最悪の3兆1320億ドルに拡大した。新型コロナウイルスのまん延で落ち込んだ米景気を支えるために、米政権・連邦議会が3月以降3兆ドルの経済対策を発動したことが響いた。
■中国人民銀行も人民元高を容認
民主党政権になることで「貿易面の不確実性が後退する」(TD証券)ことも新興国通貨買い・ドル売りを促しやすい。特に足元で目立つ取引は人民元買い・ドル売りだ。新型コロナの感染拡大をほぼ押さえ込んだ中国は、20年7~9月期の実質経済成長率が前年同期比4.9%増まで回復しており、国際通貨基金(IMF)は中国の20年通年の成長率が1.9%、21年も8.2%になると予測している。新型コロナの感染が再び拡大している欧州や米国に比べて景気の先行き懸念が少ないことも市場参加者の人民元買いを後押しする。
中国人民銀行(中央銀行)は22日、人民元の売買の基準値を対ドルで、18年7月中旬以来の元高水準に設定した。「当局も人民元高を容認する姿勢を示し続けている」と受け止められている。
短期的にはドル売りを積み上げた投機筋の買い戻しでドル高に振れる可能性はある。ただ、民主党政権下での財政悪化見通しを背景に「20年末から来年にかけてドルは対主要通貨で一段と低下する」(CIBCキャピタル・マーケッツのバイパン・ライ氏)との見方が強まる中では、再びドル売りがかさみドル相場の下押し圧力は続きそうだ。