【日経QUICKニュース(NQN)末藤加恵】米大統領選の投開票まで2週間を切った10月23日、日本時間午前10時から最後のテレビ討論会が開かれた。トランプ米大統領と民主党候補のバイデン前副大統領の舌戦が繰り広げられるとあって、市場関係者は固唾をのんで見守ったが、従来の主張を繰り返すばかりで不規則発言もなく、円相場は動意薄だった。選挙は水物――投資家の間にはそんな意識が強く、様子見姿勢をなお崩していない。
■動意に乏しい展開
「相場を動かす目ぼしい発言はなかった。劣勢と伝えられるトランプ氏が巻き返したと言うにも不十分で、改めて様子見姿勢を強めた投資家は多かった」。あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストはきょうのテレビ討論会をこう振り返る。
23日の東京外国為替市場で円相場は米長期金利の上昇を手がかりにした円売り・ドル買いが出て、朝方に1ドル=104円93銭近辺まで下落した。105円に近づいた場面では、一転して国内輸出企業による円買い・ドル売り注文が優勢に。105円を割り込まなかったことで、一部の投機筋も利益確定目的のドル売り・円買いを出していたとみられ、次第に下げ幅を縮小した。テレビ討論会中にきょうの高値の104円67銭を付けたが、討論会中の値幅はわずか10銭ほどと動意に乏しい展開だった。
※23日の東京外国為替市場で日中のドル円は方向感に欠けた値動きだった
9月29日に開かれた第1回のテレビ討論会は非難合戦に終始し、「史上最悪」と酷評された。今回の討論会では、ひとりの候補が各テーマの冒頭で2分間話す際、別の候補の音声マイクを切るという新たな仕組みを導入し、両候補が発言を妨害する場面はあまりなかった。トランプ氏は対中強硬策の成果を強調し、米国を新型コロナウイルスの感染拡大前に戻すと自信をのぞかせ、バイデン氏は医療保険制度改革法(オバマケア)の拡充などに意欲をみせた。ただ、市場では「従来の主張の繰り返しで、新たなトピックはなかった」(諸我氏)と受け止められた。
■2度の教訓
市場関係者の間では「バイデン氏勝利」がコンセンサスになりつつあるが「投機筋がバイデン氏勝利を先取りして持ち高を一方向に大きく傾ける動きはあまりみられない」との声は多い。前回の米大統領選や2016年の英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)をめぐる国民投票の際、いずれも市場予想と正反対の結果となり、事前につくったポジションが損失を抱えるなど、辛酸をなめた投資家も少なくなかった。2度の教訓を糧に、慎重姿勢を崩さない投資家は増えているようだ。
新型コロナの感染拡大に伴う景気悪化が続く今回の大統領選では、トランプ氏とバイデン氏のどちらが勝っても巨額の追加財政出動が見込まれ、米財政の悪化は避けられない。SMBC信託銀行プレスティアの二宮圭子シニアFXマーケットアナリストは「仮にバイデン氏が勝っても、政策期待によるドル高は続かず、選挙後も円・ドル相場の方向感が出にくい状況が続くとみる投資家が多いことも円相場の値動きが乏しい要因ではないか」と話していた。