【NQNニューヨーク 古江敦子】米大統領選挙が来週に迫り、新興国通貨の先高観が増している。バイデン前副大統領の勝利による米民主党勢力の拡大が有力視されており、トランプ政権による米国第一主義の外交・通商政策が転換するとの見方からだ。貿易が経済を支えるアジアや中南米など新興国の通貨に買いが増えるとみられている。
■世界貿易の持ち直しに
10月26日は欧米での新型コロナウイルス感染の再拡大でリスク回避目的のドル買いが幅広い通貨に対して優勢となった。だが、ドル買いの勢いは限られている。ダウ工業株30種平均が一時、前週末比965ドル超(3%)下げたのに対し、インターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数の上昇率は最大でも0.3%強にとどまった。「米大統領選での民主党勝利の観測は根強く、中長期的なドル安の流れは変わってない」(スコシア・キャピタルのショーン・オズボーン氏)との読みが多い。
米大統領選の結果は新興国にとって重要だ。TD証券のクリスチャン・マッジオ氏は「バイデン新政権による財政出動が実現すれば新興国から米国への資材などモノの輸出が増し、新興国経済が活性化する」とみる。トランプ政権の米国第一主義がバイデン政権下で多国間協議を重視する通商政策となれば「新型コロナウイルス禍で一段と減速した世界貿易の持ち直しにつながる」と期待する。
■「新興国通貨は年末に急伸する」
マッジオ氏は、大統領と議会上下両院を民主党が占める「ブルーウエーブ」が実現すれば、通商問題の緊張緩和で中国人民元が上昇し、韓国ウォンなど他のアジア通貨の恩恵も大きいとみる。貿易や移民問題の圧力が和らぐとの見方から、メキシコのペソも買われると予想する。トランプ政権の2年目から急速に下げたロシアのルーブルやトルコのリラを巡っては「バイデン政権となれば経済制裁など外交上の圧力が弱まり、対ドルで持ち直す」という。
モルガン・スタンレーのジェームズ・ロード氏は「新興国通貨は年末に急伸する」と主張する。為替相場は米大統領選での民主党優勢の可能性が十分に織り込まれておらず、その反動が出るとの見立てだ。大統領選後に新型コロナワクチンの実用化に現実味が増せば「新興国経済が全般に回復するため、投資資金が広く振り向けられる」とも指摘した。ブラジルレアルなど一部の中南米通貨の上昇を見込み、南アフリカのランド、ロシアのルーブルの買いを増やしたという。
米株式相場の急落で、全般に持ち直し基調にあった新興国通貨は26日に対ドルで売りに押された。だが、米大統領選後の民主党勢力の広がりを予想する声は多く、結果次第では新興国通貨が上昇するシナリオも織り込む必要がありそうだ。
<金融用語>
新興国通貨とは
成長段階の初・中期に位置しており、高い経済成長が継続し、今後の発展が期待できるエマージング諸国(新興国)で流通する通貨のこと。発展途上のため高い成長性と収益性を期待できる半面、流動性が低く政治や社会情勢によって通貨が暴落するなどのリスクもある。 例えば、中国の人民元、ブラジルのブラジルレアル、南アフリカ共和国の南アフリカランド、インドのインドルピー、ロシアのルーブル、メキシコのメキシコペソ、マレーシアのマレーシアリンギット、インドネシアのインドネシアルピア、タイのタイバーツ、チリのチリペソ、トルコのトルコリラ、ポーランドのポーランドズロチ、フィリピンのフィリピンペソなど。