【日経QUICKニュース(NQN) 宮尾克弥】電線大手のフジクラ(5803)株が足元で大きく上昇している。2日発表した2020年4~9月期の連結決算で最終赤字予想から一転して黒字となったことで、先行き期待が拡大。株価は今月に入り一時40%上昇した。米大統領選で通信網などの整備を公約に掲げるバイデン前副大統領の勝利が有力になっていることも追い風で、長く続く株価の低迷に反転の気配が出てきた。
■進捗率8割
「株価と業績の反転を期待させる内容だ」。ある国内証券の投資情報担当者は今回の決算を見て指摘した。フジクラの株価は新型コロナウイルスによる景気低迷の警戒感から急落し3月13日に年初来安値(245円)をつけて以降も200円台後半~300円台前半のレンジ相場となっていたが、明るさが見えてきた。
4~9月期の営業利益は前年同期比54%増の89億円と、会社計画の10億円を大きく上回った。決算と同時に発表した21年3月期の営業利益予想は前期比3.3倍の110億円。4~9月期の時点で進捗率は8割に達しており、SMBC日興証券の担当アナリスト、山口敦氏は「明らかに保守的な見通しで上振れ期待が高まった」と話す。
※フジクラの第二四半期決算と進捗率
この数年、業績が伸び悩んでいたのは中国企業との競争激化で光ファイバーの価格が下がったことが主な要因。フジクラに限らず日本勢は苦戦を強いられた。フジクラは20年3月期、期初予想を3度も下方修正する事態に追い込まれた。通期の予想が保守的なのは「前期の苦い記憶もあるのだろう」(国内証券の投資情報担当者)との見方がある。
希望の光となっているのが戦略商品の超細径高密度光ケーブルだ。「ローラブルリボン」とも呼ばれ、最新光技術を利用し細径・軽量化・大容量を実現し日本勢がほぼ独占する。フジクラも「データセンター需要の増大で超細径高密度光ケーブルの販売が4~9月期に伸びたことは黒字転換に貢献した」(IR担当)と話す。
※フジクラの連結営業利益・最終損益の推移
■高評価の100日プラン
もう一つ評価を高めたのが構造改革の進展だ。9月14日に事業再生に向けた「100日プラン」の策定を発表した。具体的な数値が見えないとの評価から市場の反応は限定的だったが、2日公表の決算説明会資料で事業構造の改善効果として年77億円(上期36億円、下期41億円)が見込まれると明らかにした。「構造改革効果がすぐ出たことは高く評価できる」(国内証券アナリスト)との見方が買いを加速させた可能性がある。
今後、ここから収益を伸ばすことができるか。高付加価値商品は期待できるが、激しい競争環境は変わらない。厳しい目線は業界全体のもので電線御三家と呼ばれるフジクラ、住友電気工業(5802)、古河電気工業(5801)のPBR(株価純資産倍率)はいずれも解散価値の1倍を下回る。
米大統領選で民主党候補のバイデン氏が有力となっているのは追い風になる。同氏や民主党は地方政策の一環として高速通信網の整備を訴えてきた。バイデン大統領が実現すればデータセンター、通信会社の光ファイバー施設は活発化しそうだ。
※フジクラ株と日経平均株価(2019年末を100として指数化)
ただ、SMBC日興証券の山口氏は「戦略商品の超細径高密度光ケーブルを持つことから受注を高めそうだが、長期で考えれば新規事業は必要」と話す。フジクラは新規事業として自動運転などの次世代技術「CASE」や新型コロナの医療機器用センサー拡大を目指す。戦略商品以外に新たな事業機会を見いだせるかが今後の注目点だ。