7日土曜日の午前、ロサンゼルス西部で8カ月ぶりの雨が降った。外出を控え自宅で雨が止むのを待った。多くのロサンゼルスの住人がそうしたと思う。クルマの騒音や犬を散歩する声が聞こえない。CNNをみていると、3日間変わらなかった大統領の主要2候補の選挙人獲得数が突然変わり、バイデン氏勝利確定を告げる速報が流れた。
ロサンゼルス時間の午前8時24分(日本時間の8日午前1時24分)。ワシントン・ポスト紙によると、バイデン氏勝利を最初に報じたのはCNNだ。1分以内にNBC、CBS、ABC、ケーブルのMSNBCが続いた。AP通信が2分後に速報。FOXニュースが伝えたのはCNNの16分後だった。ロサンゼルスの住人は雨の影響でいずれかのチャンネルでいち早くバイデン氏の勝利を知ることになった。
正午過ぎに待望の雨が止み、バイデン氏の勝利を祝うため多くのロサンゼルスの住人が街に出た。ダウンタウンに近いエコパークでシャンパンボトルを開ける音が鳴り響き、花火が打ち上げられ、市内の至るところで幅広い世代が踊ったとロサンゼルス・タイムズ紙が報じた。地元にゆかりのあるカマラ・ハリス氏が米国史上初の女性の副大統領になることが確実になったこともあり、街全体がお祭りムードにつつまれた。ロサンゼルス郡選挙委員会のまとめでは、71.23%の有権者がバイデン氏に投票した。
3日の投票日の夜、投票所の票が先行して集計されたためトランプ大統領が予想外に票を伸ばした。2016年に続き世論調査が再び間違ったと一部で伝えられた。それが「レッドミラージュ」だったことがわかるまでに時間はかからなかった。
翌4日以降はバイデン氏がトランプ氏をリード。結果が確定していないアリゾナ、ネバダ、ジョージアの3州でもバイデン氏が勝つ見通しで、獲得した選挙人数が最終的に306人に達する可能性があるとCNNなどが解説する。306人はトランプ氏が4年前に獲得した選挙人の数だ。全米ベースの総得票の差も拡大傾向にある。隠れトランプを過小評価した部分はあるが、世論調査や主要メディアの予想は概ね正しかったと言える。
バイデン氏は9日に新型コロナウイルスの対策チームを立ち上げ、政権移行への作業を本格的にはじめる。トランプ氏は8日時点で敗北宣言を予定していない。弁護士のジュリアーニ氏は法廷闘争を続けると強調した。ただ、最高裁まで争った2000年の大統領選で争点になったフロリダ州の票差がわずか1784票だったのとは状況が異なり、結果は覆らないとの見方がコンセンサスになりつつある。
主要ニュース・チャンネルは、ロサンゼルスのほか、サンフランシスコ、ニューヨーク、アトランタ、フィラデルフィア、首都ワシントンなどで勝利を祝うバイデン支持者の映像を繰り返し報道した。怒ったトランプ支持者の集会も同時に伝える。ロサンゼルスのビバリーヒルズではトランプ氏の支持者が集合し、周辺の道路が封鎖された。バイデン氏は勝利演説で「癒すときだ」とした上で、「分断させる大統領ではなく、団結させる大統領になる」と誓った。コロナ対策、景気回復、地球温暖化対策など難問が山積みだが、最も困難なのは7000万票以上を投じたトランプ支持者を癒すことかもしれない。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信