バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収の中止命令に動いた。3日発表の声明で、「国益のため、主要な米国企業が米国の鉄鋼生産能力の主要部分を占める必要がある」と強調、「米国の最大メーカーの1社を外国人が所有することは、国家安全保障とサプライチェーン(供給網)のリスクになる」と説明した。任期末期の大きい決断。幅広い米メディアがトップ級で報じた。
ホワイトハウスは買収支持と阻止で割れたようだ。ワシントン・ポスト紙は4日、安全保障担当のサリバン大統領補佐官、ブリンケン国務長官とキャンベル国務副長官、エマニュエル駐日大使、イエレン財務長官ら高官数人の反対を押し切って、バイデン氏がUSスチール買収を阻止したと報じた。タイUSTR(米通商代表部)代表やリチェッティ氏らバイデン氏に最も忠誠のある3人の補佐官は取引後の雇用保証に懐疑的で、安全保障上の理由で阻止を進言したとしている。エネルギー省のグランホルム長官も買収阻止を支持したと伝えた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は3日、米政府が保護主義に傾斜していることを示し、創業124年のUSスチールの先行きに影を落とすと報じた。社説で、米国の製造業と安全保障の打撃となると同時に、政治化し腐敗した対米外国投資委員会(CFIUS)は米国の評判を傷つけたと主張した。バイデン氏の買収阻止は経済的マゾヒズムだと厳しく批判。USスチールは取引不成立なら工場を閉鎖すると警告しており、労働者の利益にならないと伝えた。
ニューヨーク・タイムズ紙は4日、日本製鉄の買収が阻止されても、日本は米国への投資をやめないと報じた。高齢化と人口減が進む日本の企業は外国に成長を求め、主に米国と中国への貿易を拡大してきたが、中国での事業展開は困難になったと指摘。トランプ次期米大統領が関税を引き上げるリスクがあり、日本と外国企業は中国以上に米国に投資する大きいインセンティブがあると伝えた。
社名に合衆国を示す「US」を冠するUSスチールはかつて米国のアイコン的な存在だった。いまは米国の鉄鋼業界で3位、生産高は世界のトップ20にも入らない。米国の代表企業はマグニフィセント7をはじめとするハイテクにシフトした。バイデン氏の声明を受け、USスチールの株価は7%下落。日本製鉄の買収計画が発表されて以降に株価は38%下がった。ウォール・ストリート・ジャーナルは、投資家がUSスチールの破綻する可能性を懸念したと解説。CBSニュースは、USスチールの選択肢は限定的で、不透明な未来に直面したと報じた。20日にホワイトハウスに入るトランプ氏はUSスチール買収にノーと言い、次期副大統領のバンス氏は特に強く反対している。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。