7日は強風がすごかった。大きく揺れるので故障かと思いクルマを停めた。「サンタアナの風」で、パシフィック・パリセーズの山火事が深刻化したと妻から聞いた。2006年公開の映画「ホリディ」でも語られた山から海岸に向かう乾燥した高温の強風。過去に何度も山火事を引き起こし、「悪魔の風」と呼ぶ人もいる。
日本人観光客も多いサンタモニカと「ビリオネアビーチ」で知られるマリブに挟まれたパシフィック・パリセーズ。海と山の両方の景色が楽しめる人口2万人の街で、富裕層の多くが住宅を構える。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「リッチ・アンド・フェイマス(裕福で有名な人)」の住宅街が避難を強制されたと報じた。パシフィック・パリセーズの平均住宅価格は340万ドル(約5億3700万円)。5995万ドル(約94億円7200万円)の豪邸もあるとしている。「ビバリーヒルズ・ホテル」など市内のホテルは避難民で満室。ロサンゼルス・タイムズは、クルマで2時間のパーム・スプリングまでホテルはロサンゼルス市民であふれていると報じた。
「パリセーズ・ファイア」でマリブを含めた幅広い地域が壊滅状態になった。TMZによると、メル・ギブソンやベン・アルフレック、パリス・ヒルトンら多くの「Aリストスター」の住宅が焼失。知人の映画スタジオ幹部の住宅は全焼。娘がピアノを習った先生の大きな家、誕生日を祝ったレストランも完全崩壊した。思い出の場所が消えるのはつらい。筆者の自宅近くは被災しなかったが、外を歩くと洋服や髪が煙臭くなる。大気質指標(AQI)は危険とされる300に一時接近した。発生から6日経ったいまも燃え続けていて、灰が空から降ってくる。新型コロナウイルス流行で注目された高性能マスク「N95」を装着した人が目立つ。市当局は13日、「非常に危険な状態を脱していない」として全域の非常事態を維持した。
カリフォルニア州のニューサム知事は、12日のNBC報道番組「ミート・ザ・プレス」で、「スケールとコストは米国史上最悪」と述べた。13日時点で約4万エーカー(162平方キロ)が燃え、1万2000棟を超える住宅・店舗が焼失。死者は26人だが劇的に増える恐れがあり、14万人超はいまも避難を強いられている。まさに「カオス」。ニューヨーク・タイムズは、気候変動が災害被害は劇的に拡大させたと伝えた。米気象サービス「アキュウェザー」が、推定被害額は1350億~1500億ドル(約23兆7000億円)と試算したが、損害額はそれを大幅に上回る恐れがある。JPモルガンによると、保険被害額は200億ドル(約3兆1600億円)と山火事として過去最大となる見通しだ。保険会社の株式は軒並み売られ、電力会社エジソン・インターナショナル株は急落した。
バイデン大統領は、がれき除去や避難所などの費用を連邦政府が180日間、全額負担すると表明。周辺の9州に加え、カナダとメキシコも消火活動に参加。トランプ次期大統領はニューサム知事と犬猿の仲で、「全ては彼(ニューサム知事)のせいだ」と水資源管理を批判した。トランプ氏に近いマスク氏もX上でロサンゼルス市の対応を激しく攻撃。政権交代が災害対策や復興にどう影響するか不透明。ロサンゼルスでは昨年5月からまともな雨が降っていない。昨年10月以降の雨量はわずか0.42インチ(約1.07センチ)。週明けも「悪魔の風」が吹く予報。終息の見通しは立たず、被害がさらに深刻化する恐れがある。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。