11月9日の米金融・資本市場は新型コロナウイルスのワクチン開発への期待に沸いた。株高、原油高の一方、金相場が下落して債券相場も下落(長期金利は上昇)と、投資家がリスク資産に資金を移す「リスクオン」一色となった。長期金利は節目の1%が視野に入ってきた。
■株買い、債券売りが活発
9日のニューヨーク債券市場では米長期金利の指標である10年物国債利回りが前週末比0.10%高い(価格は安い)0.92%で終えた。一時は0.97%と3月20日以来、7カ月半ぶりの高さになった。超長期である30年物国債の利回りも一時、1.76%と3月中旬以来の水準に上昇した。米ファイザーなどが開発する新型コロナワクチンが高い有効性を示し、経済が正常化に向かうとの想定から株買い、債券売りが活発になった。
債券のなかでもリスク資産に位置づけられるハイイールド債は買われた。米運用最大手ブラックロックが運用し、米ハイイールド債の上場投資信託(ETF)としては規模が最大の「iシェアーズ・iボックス・米ドル建てハイイールド社債」の価格は一時、前週末比2%上昇した。ワクチン開発により経済回復が進めば「企業のデフォルト(債務不履行)リスクは一段と低下する」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)との見方がハイイールド債の利回り低下につながり、米国債利回りとの差(スプレッド)は一段と縮小した。
■2~3年はFRBの利上げはない
ゴールドマン・サックスのヤン・ハチウス氏は世界の2021年の経済成長率を6.0%と、国際通貨基金(IMF)の予測(5.2%)よりも高めに見積もる。欧米での新型コロナの感染再拡大で21年1~3月期までは低調な経済状況となるが、21年4~6月期以降はワクチン普及でリバウンドが大きくなるとみているためだ。
実体経済が回復する前に長期金利が先行して上昇すれば、米連邦準備理事会(FRB)は国債を無制限に買い入れて金利上昇を抑えるとの見方は根強い。少なくとも今後2~3年はFRBの利上げはないとの見方が依然としてメインシナリオとなっており、長期金利が1%を大きく上回る状況をFRBが放置する可能性は低い。
もっとも、短期的にはオーバーシュートする(行きすぎる)可能性は高まっている。長期金利は9日の急上昇で、チャート上で200日移動平均線(9日時点で0.80%)を明確に上回ってきた。このため「トレンド追随型のヘッジファンドなどの米国債ショート(空売り)が今後増える」(米国債トレーダー)との見方が出ている。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、米10年物国債先物は売り越しに転じている。5年物や30年物の売り越し規模は過去2年間で最大となり、「10年債も一段と売りが膨らむ可能性がある」(BMOキャピタルのリンジェン氏)という。
FRBのパウエル議長は5日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で「景気支援のため、資産購入策を再検証する」と述べ、量的緩和を拡充する考えを示した。すでに米国債を月800億ドルと過去にないペースで買い入れているFRBが、どこで買い増しに動くのか。それをにらみつつ、長期金利が1%を超える場面はありそうだ。(NQNニューヨーク 張間正義)