【NQNニューヨーク 岩本貴子】米国で新型コロナウイルスの感染拡大が、またも景気回復の重荷になりつつある。11月17日の米債券市場では長期金利の指標となる10年債利回りが低下(債券価格は上昇)した。前日比0.05%低い0.85%で取引を終えた。新型コロナのワクチン開発進展への思惑で節目となる1%に近づいていたものの、足元のコロナの感染拡大で個人消費の持ち直しが減速するとの警戒が、楽観論に勝り始めている。
■「個人消費の伸びはより厳しくなる」
米商務省が17日発表した10月の小売売上高(季節調整済み)は前月比0.3%増にとどまった。伸び率は下方修正された9月分(1.6%)から大きく鈍化し、ダウ・ジョーンズがまとめた市場予測(0.5%程度)も下回った。衣料品店や飲食店の売上高が前月比で減少した。
新型コロナのまん延直後に落ち込んだ個人消費は、夏場にかけて持ち直していた。政府による現金給付に加え、失業手当の上乗せ分で家計の貯蓄率が上昇したことも消費者心理の支えになった。ただ、サービス消費の代替として販売が伸びたのは自動車や家電、ガーデニング用品など耐久財が中心だ。特需が一巡すれば「今後数カ月は、個人消費の伸びはより厳しくなる」(CIBCキャピタル・マーケッツ)。
■新型コロナの感染拡大
新型コロナの感染は全米で拡大が続いている。新規感染者数(7日移動平均)は10万人を超え、入院者数も急増。カリフォルニア州が一部の地域でレストランなどの屋内営業を禁止するなど、複数の州で経済活動を制限する動きが強まっており、サービス消費の持ち直しは期待しにくい。
しかも今回は、新型コロナがまん延し始めたころに米政府がまとめたような経済対策の追加が今のところ見込めない。失業保険の受給期間の延長を含む家計向けの政府の支援策の一部は2020年末で失効する見通しで、政府の支援策がないまま、感染拡大を防ぐための経済活動の制限で企業の人員整理が増えるとなれば、個人消費の下押し要因になる。
JPモルガンの調査では、JPモルガン・チェースのクレジットカードやデビットカードを持つ3000万人の個人消費は11月上旬にかけて前年やその前の2週間に比べて顕著に減った。「2020年10~12月期の国内総生産(GDP)が下振れする可能性もある」(JPモルガンのマイケル・フェローリ氏)。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は17日の討論会で「足元の新型コロナの感染拡大はこの先の景気の著しい下振れリスクになる」と指摘した。今後発表になる経済統計などで足元でのコロナの感染拡大が米景気を下押ししていることが明らかになれば、相対的に安全資産とされる債券買いを促す場面が増えそうだ。