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「トウモロコシ・大豆価格の急落リスクに備えよ」―マーケット・リスク・アドバイザリー・新村氏

トウモロコシと大豆の価格が大幅に上昇している。年初来の騰落率は原稿を執筆している現在、トウモロコシが8.6%、大豆が26.2%となっているが、今年の4月の底値から各々3割を超えている。背景には、1.中国が米国との通商合意を遵守するために輸入を増やしていること(表向きは通商合意遵守だが、中国側の在庫減少と養豚数の回復による飼料向け需要増加、といった中国側の事情による輸入増加の可能性が高い)、2.ラニーニャ発生に伴い各地で異常気象が発生しており、トウモロコシ・大豆の生育環境に好ましくない気象状況になっていること、が主なところだ。しかし、弊社はトウモロコシ・大豆価格が急落するリスクを警戒すべきと考えている。

※トウモロコシ先物と大豆先物の推移
※トウモロコシ先物と大豆先物の推移(2020年初を100として指数化)

■価格上昇は投機の買いが影響

これまでの価格上昇はこのコラムでも何回か説明しているように、米国の在庫見通しが大きく引き下げられたあたりから加速しているが、価格上昇の背景には投機の積極的な買いが影響していると見られる。先物取引の場合、CFTCなどが調査しているため、投機・実需、売り・買いのいずれの要因によって価格が変動したかを把握することができる(なお、投機の買いが積み上がっているから投機資金が流入している、という説明は先物取引では適切ではない)。

当たり前の話だが、先物取引の売りの枚数と買いの枚数は必ず一致するし、投機と実需で分けた場合でも、売りと買いの枚数は一致する。仮に投機筋のネット買い越しが増加した場合、反対側は同じだけの実需のネット売り越しが存在するためだ。

また、投機に焦点を当てたとき、ネット買い越しが増加している場合は、1.ロングが増加する、2.ショートが減少する、3.1.2.の両方、のいずれかが起きている。通常、ロングの増加は実需が増加している時、ショートの減少は供給に問題が生じて減少する可能性がある(仮にショートポジションを有していて現物のデリバリーで決済しようと考えていた場合、現物が確保し難い環境になるとスクイーズのリスクが高まるため)時に発生する。なお、投機筋の場合、基本的には現物のデリバリーを望まないため期限までにポジションをロール・オーバーするか、期限までにポジションを解消するかのいずれかの行動を取る。投機筋は現物確保(/売却)を前提としていないことから、どこかのタイミングでこのポジションを解消するので、相場を大きく動かすことがある。そのため、投機筋のポジション動向が注視されることが多い。

■現ポジションが解消されると…

現在、トウモロコシと大豆の投機のポジションは、ロング・ショートに分けてみると、いずれもロングが同じ時期の過去5年の最高水準を大きく上回っており、一方でショートが過去5年の最低水準を下回っている。つまり、需要が旺盛で(中国の需要、コロナからの立ち直りで燃料向け需要が増加)、かつ、ラニーニャ現象発生で供給への懸念が強まっていることの両方が材料になっている、と考えられる。

しかし、言葉を換えると仮に売り材料、例えば極端なドル高や異常気象の解消、米国と中国の対立で輸入が減少(現在の中国の輸入増加は、前述の通り米国に配慮しているというよりも、本当に国内の供給が足りないことによるものなので、政策的な理由で中国の輸入が減少する可能性はさほど高くない)する、といったことが起きた場合、これらのポジションが解消される可能性がある。この時、ロングの積み上がりが大きいためポジション解消時には下落圧力が強まる、ということである。さらにショートはポジションが軽いため、新規に売りポジションを保有しやすい環境にあるのもまた事実である。

現在、欧州を中心に再びロックダウンの動きが拡大する可能性は高まっている。そうなると、回復していた燃料需要が減少することになるため、近年では景気の影響を受けやすくなったこれらの穀物価格が、急落する可能性は意識しておく必要があるだろう。

新村 直弘(にいむら なおひろ)氏
東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月に企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。また日経新聞や週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済等のメディアにも多数寄稿。著書に「調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門」、「天候デリバティブのすべて」「コモディティデリバティブのすべて」がある。

著者名

マーケット・リスク・アドバイザリー 代表取締役 新村直弘

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