【QUICK Market Eyes 弓ちあき】今年もあと1カ月を残すところとなり、バリュー(割安)株への資金回帰が進むかが注目を集めている。TOPIXバリュー株指数をTOPIXグロース株指数の月別のリターンの差を見ると、11月は8月以来のバリュー優位となっている。
■TOBが企業価値を見直す呼び水に
一般的に金利が上昇すると、成長過程にあり足元の実現益の小さいグロース株の将来利益を現在価値に見直す際の割引率が上昇するため、許容されるバリュエーション(投資尺度)が切り下がり、バリュー株優位になりやすいと言われている。また4~9月期決算を通過し、業績底入れ期待が高まったことがバリュー株相場の到来への期待につながっているようだ。一方、中長期の成長期待が低迷する業種や企業もある中、PBR(純資産倍率)やPER(株価収益率)といった投資尺度も含め、何をもって「割安」と見るか判断が難しい。
その中ではTOB(株式の公開買い付け)が企業価値を見直す呼び水になると期待する声もある。M&A仲介のストライク(6196)によると、2020年のTOB金額は9月末までで2兆6899億円(不成立案件を除く)と、19年通年比ですでに約6割増の水準にある。
■時価総額が親子で逆転
業界再編に加え、日本では親子上場解消の流れも進んでいる。親子上場はガバナンス(企業統治)の観点から、機関投資家サイドに対する説明責任が増していることも一因だ。
特に注目しておきたいのが、時価総額が親子で逆転している例だ。QUICKがまとめた「親子上場ガバナンスウォッチ」で確認できる294社のうち、実に17社で親子の時価総額の逆転現象が起きている。
比率が最も高いベネフィット・ワン(2412)の時価総額は親会社のパソナグループ(2168)の7.7倍になっている。企業の福利厚生サービスを代行するベネ・ワンは契約企業から受け取る課金型サービスで収益性が安定しており、21年3月期も最高益更新を見込む。ROE(自己資本利益率)も30%と高水準で、給与天引きシステムを基盤としたサービス拡充で成長期待も高まっている。一方、パソナGの人材派遣など人材サービスは景気動向の影響を受けやすい上、ROEも相対的に低い。
ノーリツ鋼機(7744)は多角事業展開を進める一方、子会社のJMDC(4483)は医療データ分析を専業とする。複合事業経営で株価が低迷する「コングロマリットディスカウント」が反映されていると見ることもできそうだ。
親子で時価総額が逆転している場合、極端な例では親会社の株を保有している株主は理論上、会社を解散して子会社の株式を現金化すれば利益が出るといったことになりかねない。こうした企業価値の逆転現象に対して、当然ながら投資家の視線も厳しくなっている。例えばアクティビストファンドのオアシス・マネジメント・カンパニーはパソナGに対して過去に要求書を提出したほか、GMOインターネット(9449)に対しては株主提案を出した経緯もある。
今年3月以降は親会社である日本電信電話(9432、NTT)の時価総額を上回っていたNTTドコモ(9437)は9月に発表されたTOBが成立し、完全子会社化が決まった。優秀な「子」を抱える「親」はその扱いを巡り、一層厳しく身の振り方が問われていきそうだ。
■完全子会社化のメリットが高そうな銘柄一覧
なお完全子会社化の可能性が高い企業を探る観点で、子会社を完全子会社化するメリットが大きい親子上場のパターン(親会社の営業利益に占める割合が30%以上)のうち、年初来の子会社の株価下落率上位10社をスクリーニングすると大日本住友製薬(4506)や前田道路(1883)、ギガプライズ(3830、セントレックス)などが挙がった。
21年度に向けても親子上場は1つの相場テーマとして注目を集めそうだ。
<金融用語>
アクティビストファンドとは
アクティビストファンドとは、一定以上の保有株式を裏付けに企業経営者に対して増配や自社株買いなどの株主還元の要求や、株主総会における議決権行使などを積極的に行う投資ファンドで、物言う株主とも呼ばれる。
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