【QUICK Market Eyes 阿部哲太郎】12月4日の日本経済新聞電子版は、菅義偉首相が首相官邸で記者会見し、脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金創設を表明したと報じた。温暖化ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現する目標達成を後押しする。菅首相は11月21、22日にオンラインで開いたG20(20カ国)リヤド・サミットで、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指す方針を世界に向けて改めて表明している。
■テーマ株の上昇率ランキング1位
ESG(環境・社会・企業統治)投資の広がりやバイデン政権のグリーン・ニューディール政策、欧州の環境投資の加速などもあり、従前より環境関連株への追い風が続いている。
中でも強さを見せているのは、太陽電池の製造装置関連だ。QUICKが選定する9銘柄の3日までの過去75営業日平均の上昇率は46.9%と、同期間の東証株価指数(TOPIX)の9.3%を上回って推移し、テーマ株の上昇率ランキングでは1位となっている。 同様に5営業日、10営業日の上昇率ランキングでも1位となり、物色の強さが伺える。
■急速に進むグリッドパリティ
世界の太陽光発電市場は近年、中国・インドや欧州などがけん引し、拡大を続けている。米アップルは2015年にティム・クック最高経営責任者(CEO)が米カリフォルニア州に約1000億円を投資して、メガソーラー(大規模太陽光発電施設)を建設し、再生エネルギー利用へシフトすると発表し注目された。2017 年にオープンした「Apple Park」にある本社ビルの構造はドーナツ型で屋上前面に太陽光パネルが設置されている。「Apple Park」では、太陽光発電やバイオ燃料電池に蓄電池を活用し、使用する電力の100%を再生エネルギーで賄っている。
デロイトトーマツグループの直近のリポート「世界の再生可能エネルギー動向」によると、太陽光や風力発電は電池や装置の性能向上や送配電網の効率化、技術革新によって価格面でグリッドパリティ(再生エネルギーの発電コストが既存方式の電力会社から購入するコストと同じか下回ること)化が急速に進んでいるとされている。2017年にはすでに世界の太陽光の発電量が上位の中国、日本、ドイツ、イタリア、インド、英国のうち日本を除くすべての国で発電コストがグリッドパリティに到達している。従来からの「補助金が必要な高コストの補助エネルギー」との懐疑論をよそに、「価格面でも従来型のエネルギー源をしのぎ、性能面でも肩を並べつつある」と述べている。
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今後も太陽発電システムへの投資が続くとみられ、業績拡大への期待は強い。低コストの薄膜太陽電池モジュールで世界トップクラスの米ファースト・ソーラーは、11月30日に上場来高値を更新した。
太陽電池モジュール製造装置で高シェアのエヌ・ピーシー(6255、東証マザーズ)は、マザーズ市場が調整した中でも堅調な株価推移を続けている。同社はセルテスター、セル自動配線装置、モジュールテスターなど太陽電池製造工程の後工程の装置を手掛け、ファースト・ソーラーなど海外メーカーとの取引も多い。
アルバック(6728)、東京エレクトロン(8035)などは工程や製法が太陽電池と似ている半導体製造装置の大手でもあり、再生エネルギーの需要増加でも恩恵を受けると見られている。
<金融用語>
再生可能エネルギーとは
太陽光、風力、波力・潮力、流水・潮汐、地熱、太陽熱など、一般的にエネルギー源として永続的に利用できるものをいう。資源が枯渇しないことに加えて、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しない優れたエネルギーといわれている。対義語は枯渇性エネルギー。 投資信託の分野では近年、再生可能エネルギーを投資対象とする環境関連ファンドなども設定されている。