【QUICK Market Eyes 川口究】世界経済は正常化に向けて足取りを強め、企業が景況感への自信を深める中、アナリストによる業績予想も上方修正が優勢だ。上方修正が進んだ業種では年初来でみた株価パフォーマンスがプラスのへ転換することが多い中、不動産株はいまだ大きくTOPIXをアンダーパフォームしている。J-REITにはさらなる出遅れが目立ち、増資による需給悪化が過度に嫌気された銘柄は投資の好機といえそうだ。
■2021年末までにコロナ禍前へ回復する
世界経済の正常化が現実味を帯び始めた。経済協力開発機構(OECD)は12月1日、世界経済が2021年末までに新型コロナウイルス禍前の水準に回復する見通しを発表した。実質経済成長率が20年に4.2%低下する一方で、21年に4.2%伸びると見ており、見通しの通りに推移すると、21年10~12月期の世界の国内総生産(GDP)の水準がコロナ禍前の19年10~12月期の水準に戻る。
企業の業況に対する見方は大きく改善している。QUICKが実施した12月の短期経済観測調査(QUICK短観)で、全産業の業況判断指数(ディフュージョン・インデックス、DI)は(金融を含む)プラス2と前月調査から4ポイント上昇し、9カ月ぶりにプラスへ転換した。3カ月後を示す「先行き」に対しても3カ月連続で改善を示しており、企業は業績改善に自信を深めている。
■出遅れたJ-REIT
アナリストの業績予想の上方修正が増える中、不動産セクターの出遅れが目立つ。主要企業の業績予想の変化を示すQUICKコンセンサスDI(QCDI)は12月に算出対象の16業種のうち10業種がプラス圏に浮上し、上方修正数が下方修正を上回った。QCDIがプラスに転換した業種では年初来でプラスのパフォーマンスを示すことが多い中、不動産はおよそ13%ほど下落した水準で推移している。
J-REITに関してはさらに出遅れが目立つ。新型コロナウイルスのワクチン普及を見据えて内需系セクターへ投資資金が流入が続き、業種別株価指数・不動産業は10月末から12月3日にかけて22%上昇した一方で、東証REIT指数は同期間の上昇率が3%ほどにとどまっている。
■投資に好機か?
投資家の目線が株式の値上がり益へと傾く中、増資による需給悪化を過度に嫌気された銘柄に投資のチャンスがあるといえそうだ。野村証券は3日付リポートで、不動産株とJ-REITのパフォーマンスの開きについて、「J-REITは株式と比べて売買流動性が低いほか、インカムゲインが重視されがちだ。こうした違いが、J-REITの不動産株に対する出遅れの背景にある可能性がある」と指摘した。
またJ-REITと不動産株の状況の違いを考えると、不動産株に関してはM&Aや事業領域の拡大が話題になっていることがある一方で、J-REITセクターでは活発な増資が続き、増資を発表したREITの株価がその後下落し、なかなか反発しない傾向がみられている。こうした状況を踏まえ、同レポートで「増資の内容が厳しく評価されるべきものに変わってきているとは捉えにくい。需給悪化懸念などからの条件反射的な売りによる株価下落は本質的なものとは考えにくく、いずれ解消されると考えられる」との見解を示した。公募増資を実施した銘柄への投資に好機が訪れている。
なお大阪取引所(OSE)によれば、東証REIT指数先物の売買高が8日に8万1784枚(立会外含む)となり、過去最高を更新したという。これまでの過去最高は9月7日に記録した6万8768枚だった。11日にSQを控えていることから、ロールオーバーが活発に行われているようだ。
※期間2020年5月29日を起点として、2020年12月4日まで
※対象はJ-REIT市場で6月に増資が再開されてから12月1日までに増資を決議したJREIT延べ13社
※野村証券の試算では増資に伴う投資口発行費など特殊要因を除いた「巡航DPS(1株当たり配当金)」など増加させていることや、不動産評価額に対する融資額の比率(LTV)など含む主な経営指標の変化の状況から、J-REITの増資の内容が厳しく評価されるべきものに変化しているとは捉えにくいという
<金融用語>
J-REITとは
J-REITとは、Japanese Real Estate Investment Trustの略。日本版REITとも称される日本で組成されたREIT(不動産投資信託)のことをいう。投資家から集めた資金で購入した不動産を運用し、その賃貸収入や売買益等をもとに投資家に分配する金融商品で、もともと米国で誕生したが、その仕組みが日本のREITと米国のREITでは異なる点もあるため区別してJ-REITと呼ばれている。