【日経QUICKニュース(NQN) 岡田真知子】2020年、新型コロナウイルスによって苦境に立たされた業界の1つが外食産業だ。本来なら新たな年への備えで忙しい師走は外食需要が増え、かき入れ時となるはずだった。国内の感染状況は深刻化し、再び営業時間の短縮要請が出された。飲食需要の喚起策「Go To イート」もむなしく外食には厳しい冬となりそうだ。厳冬を乗り切り、再浮上するには、新たな課題に即座に対応する機動力が求められる。
■戻りかけたのに・・・
「テークアウト再開します」。東京都世田谷区のある居酒屋は最近、こんな告知を出した。感染拡大で営業時間を再度短縮することになり、夏前にやめていた持ち帰りメニューを復活させた。
感染再拡大で対応に大わらわの飲食店。業績面ですでに寒風が吹いている。7日に発表したすかいらーくホールディングス(3197)の11月既存店売上高は前年同月比14.9%減。客数は同20.9%減だった。売上高、客足ともに回復が確認された10月から再び落ち込みがみられたことが嫌気され、すかいらーく株は8日午前、2%下げる場面もあった。
※すかいHDの月次動向
10月ごろまでは外食需要の戻りに合わせ、外食株の多くは回復傾向にあった。総務省の家計調査では家計支出(2人以上世帯)の「外食費」は4月の5127円を底に徐々に回復し始め、10月には1万2413円と、コロナの影響が深刻化する前の2月以来の水準まで支出額が戻っていた。「コロナ禍の勝ち組」とされる回転ずしチェーンは戻りが顕著で、4月から10月末までの騰落率はスシローグローバルホールディングス(3563)が約8割、くら寿司(2695)が約6割の上昇だった。
ただ、ニッセイ基礎研究所の久我尚子主任研究員は「外食需要は11月以降に再び大きく落ち込んでいくだろう」と指摘する。11月に入り、国内の新規感染者数は都市部から再拡大を始め、下旬には東京都が飲食店などに時短営業を要請するほどに深刻化した。「国内のコロナ感染者数と家計調査における外食支出の金額はほぼ反比例する」(久我氏)ため、目に見えて感染者数が減らない限り、外食需要は戻りにくいだろう。
■時短でも売り上げ増
コロナの感染が収束しても以前と同じ輝きを取り戻せるかは微妙だ。岩井コスモ証券の清水範一シニアアナリストは「仮に感染が完全収束しても、そのままでは客足は元通りにはならないだろう」と懐疑的だ。コロナ禍を機に在宅勤務が定着し、収束後も継続する方針の企業は多い。デリバリーや持ち帰りなどのサービスの種類も手段も一気に増え、消費者にはイートイン以外の選択肢が浸透したからだ。
経済的な側面もある。ニッセイの久我氏は「コロナが終わっても、経済的理由で外食を選択できない人も増える」とみる。家計調査では6月以降「勤め先からの収入」の減額が続いている。家計防衛意識も高まっており、外食などの支出を減らしたいという節約志向は当面続きそうだ。
中長期にわたって厳しい環境が続きそうな外食株が再浮上するには「臨機応変、当意即妙に対策やキャンペーンを打ち出す機動力」(岩井コスモの清水氏)が必要だ。もちろん、外食各社は努力を怠らない。日本マクドナルドホールディングス(2702、JQ)や日本KFCホールディングス(9873、2部)は店内飲食が減っても持ち帰りや宅配に注力し、減収分をカバーする。スシローGHは、席への案内から注文、支払いまですべて自動化し、非接触で完結できる仕組みを順次導入。すかいらーくも、他ブランドで展開していた店舗を持ち帰りが好調な「ガスト」に業態転換を進めるなどしている。
東京都大田区のある居酒屋では8月、売上高が前年を上回った。終業時間を早めていたにもかかわらずで、誰よりも店主自身が驚いていた。「旬の食材を生かしていろいろなメニューを提案して、お客さんに来て頂いたからです」と照れ笑いする。
清水氏は「感染状況や働き方、経済的な状況など、場面場面で消費者の需要は大きく変わる」と指摘する。消費者に求められている「新常態」は何かを見極め、実行する力こそが外食株が苦境を乗り切るための道しるべだ。つまるところ、変化はなにかを見極めて即座に反応するという、普遍的な経営手腕が求められることになるのだろう。