【日経QUICKニュース(NQN) 須永太一朗】ソフトバンクグループ(SBG、9984)が時間をかけてMBO(経営陣が参加する買収)を進め、株式の非公開化に踏み切る戦略案が報道で明らかになった。既存株主から段階的に株式を取得し、現在発行済み株式数の約4分の1を保有する創業者の孫正義会長兼社長の持ち分比率を引き上げていくという内容だ。SBGが発行している巨額の社債への影響も大きくなりかねず、市場関係者の間では「時間軸によっては財務が悪化する」などの警戒感がある。
■1年余りかけて買い取る
米ブルームバーグ通信は日本時間12月9日、事情に詳しい関係者の話として「孫氏の持ち分が他の株主を締め出すことができる程度に大きくなるまで、少しずつ発行済み株式を買い戻す新たな戦略を協議している」と報じた。SBGはかねて非公開化の観測があったが、具体的な内容が伝わったのは初めて。報道は「孫氏自身はSBG株を買い増さず、他の株主が買い戻しに応じる。このアプローチには1年余りかかる公算が大きく、その間SBGは原資を確保するために資産売却を続けることを意味する」ともしている。
SBG株の投資家からは「孫さんは自社の株価が常に割安と話している。仮にMBOするなら、相応のプレミアムを付けて買い取ってくれるはず」(外資系運用会社のファンドマネジャー)との声が上がる。孫氏の持ち分を除くSBG株の市場価値は現在、およそ11兆円。既存株主から段階的に買い取れば、その間に株価が上昇して、一度に買い取るより最終的に多くの資金が必要になる可能性がある。
孫氏は11月の米紙ニューヨーク・タイムズのオンライン講演会で、すでに約800億ドル(約8.3兆円)の現金を手元に確保したと明らかにした。追加の資産売却も進めている。ある国内運用会社のファンドマネジャーは「報道の通りにMBOが1年余りかけて進むなら資金面で問題はないが、半年など、より短期間で実施するとなったら不安が高まる」とみる。
■財務悪化の懸念
SBGは発行済み社債の大規模な償還を控えている。社債残高は9月末時点で約4.7兆円。そのうち、2021年度は約1.2兆円の償還を控える。仮に既発債の償還と株式の買い取りが重なれば、確保済みの資金でも賄えるかは不透明だ。社債市場のある関係者は「株を買い取る資金を新規の社債発行など負債で調達し、財務が一段と悪化する事態を招くのは納得できない」と話す。不動産会社ユニゾホールディングスが米投資ファンドと組んで株式を非公開化し、情報開示の後退と社債償還の懸念がつきまとっているという事例を念頭に置く市場関係者もいる。
報道が伝わった9日のSBGの社債価格は26年償還の7年物で98円台前半と、前の日から小幅に上昇した。これまでのところクレジット市場での反応は限られている。信用リスクを取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料率(5年物)も、足元は2.2%程度で落ち着いている。
MBO新戦略の報道についてSBG側はコメントを控えている。だが、グローバルな金融・資本市場での存在感がかつてないほど大きくなっているだけに、SBGは市場との対話にこれまで以上に注意を払う必要があるだろう。
<金融用語>
MBOとは
MBOとは、Management Buyoutの略称でM&Aの手法のひとつ。会社の経営陣が、金融支援(=買収をしようとする企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として投資ファンド等からの出資・金融機関からの借入れなどをおこなうこと)を受けることによって、自ら自社の株式や一事業部門を買収し、会社から独立する手法のこと。 具体的には、グループの経営方針により親会社が子会社や一事業部門を切り離す際、第三者に売却せず、経営陣がその株式を取得し、会社から独立するために用いられることが多い。また、株式公開のメリットが薄れた上場会社が、会社自ら株式非公開に踏み切るための手段として活用されることもある。なお、経営陣と従業員が一体となって株式を譲り受ける場合をMEBO(Management Employee Buyout)という。