【NQNニューヨーク 横内理恵】ドル安への警戒感が強まってきた。欧州中央銀行(ECB)の半年ぶりの追加緩和を受け、12月10日のニューヨーク外国為替市場では流動性が高くリスク回避時に買われやすいドルの対ユーロでの売りが優勢だった。新型コロナウイルスの感染再拡大で目先の景気懸念が強まるなか、さらなる景気押し下げ要因となりかねないドル安にECBだけでなくカナダ中銀など他の主要中銀も警戒感を強めている。
■対主要通貨でドル下落
ECBは10日に開いた理事会で資産購入枠を5000億ユーロ拡大し、期限を21年6月末から22年3月末へと延長すると決めた。緩和規模が一部期待より小さかったとの見方もあったが、「ECBのハト派姿勢は(リスク資産である)ユーロの支援要因」(ソシエテ・ジェネラル)としてユーロ買いが広がった。ユーロは対ドルで一時1.2158ドルまで上昇し、前週末に付けた2018年4月以来の高値(1.2177ドル)に近づいた。
ECBは声明で「為替相場の動きを今後も注視する」とユーロ高にも言及した。9日に政策金利据え置きを決めたカナダ銀行(中央銀行)も声明で「対主要通貨でのドル下落がカナダドルの上昇につながっている」と指摘していた。カナダドルもユーロ同様、対米ドルで2年半ぶりの高値圏にある。
■ドル安の根拠は乏しい
市場でもドルの下落は「行き過ぎ」との指摘が多い。株高やドル安が織り込むのはコロナワクチン普及を受けた21年後半以降の世界景気の本格回復と、投資家が積極的に運用リスクを取る「リスクオン」の高まりだ。ただ米国ではコロナ感染がピークを迎えるのはクリスマスや年末年始の休暇明けとみられ、短期的な景気下振れリスクが大きい。ワクチンが世界中に行き渡る時期も明確になっていない。
TD証券は10日のリポートで、「足元の為替相場の動きには賛同しかねる」と警告した。好材料だけを織り込み、景気回復に先回りして進むドル安の根拠は乏しいという。ドルは過去3カ月で8割の通貨に対して下げており、適正水準から3.2%過小評価されていると分析した。世界株全体の動きを示す「MSCI全世界株指数(ACWI)」は6.5%割高になっており、ともに逆方向に調整するリスクが高まっているという。
米国では米景気や雇用の回復鈍化が鮮明になってきたうえ、景気下支えに欠かせない追加の経済対策を巡る与野党協議にも目立った進展がない。欧州では英と欧州連合(EU)の貿易交渉決裂への警戒感が強まる。悪材料や懸念要因に視線が集まれば、対ユーロなどでドルが急激に買い戻される展開もありうる。
市場では、中期的な先安観を背景にドル売りの勢いが強まっていることから「ドル安はそう簡単に止まらない」(ジェフリーズのブラッド・ベクテル氏)との見方もある。市場関係者だけでなく、各国中銀もドル相場の行方を注視している。