【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 藤田心】国際商品市場で金先物相場の足踏みが続いている。ニューヨーク商品取引所(COMEX)では、取引の中心である2021年2月物が日本時間12月16日の取引で1トロイオンス1800ドル台と、この1カ月ほど同水準での推移が続く。8月には心理的節目の2000ドルを超えて最高値を更新した金相場だが、21年はどうなるか。市場関係者の間では「最高値を再び試す」「新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻る」と見方が割れている。
■池水雄一・日本貴金属マーケット協会代表理事
「ワクチンは米財政には効かない」
20年は8月に年初からの上昇率が3割を超えるなど、新型コロナの世界的な感染拡大を背景に、金が大きく注目された1年だった。ワクチン開発期待が高まった11月の「ファイザー・ショック」を境に金は調整色を強めたが、主因として金の上場投資信託(ETF)に資金を振り向けていた投資家が利益を確定する売りに動いたことが考えられる。
足元ではETFの売りに一服感が出てきており、21年に入れば新たな買いが入ってくるだろう。そもそもワクチンの接種は進んでいるものの、具体的な効き目を確認するまでには時間を要する。米国で始動するバイデン新政権では、イエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長が財務長官に指名された。財政出動で米国の財政赤字が拡大する構図は変わらない。ワクチンはコロナに効いたとしても、財政には効かないだろう。
安全資産とされる金が買われやすい状況は続き、21年中に、今年8月に付けた最高値(2089.2ドル)を試す展開があってもおかしくないとみている。同じ貴金属では、白金や銀の動向にも注目している。バイデン政権では「グリーン」がキーワードになる。白金は水素社会での触媒需要、銀は太陽光パネルの需要が見込める。中長期的にこれらの相場は上昇しやすい環境にある。
■大越龍文・野村証券シニアエコノミスト
「米金融緩和の一服感が重荷に」
金相場の今後を占ううえで注目したいのが、日本時間17日未明に公表される米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果だ。市場では国債などの資産購入のガイダンス(指針)強化が意識されている。会合で金融緩和を強化する方針となれば、緩和マネーが金相場に流れ込みやすい状況が続く。外国為替市場ではドル安が見込まれ、ドルの代替投資先とされる金先物の追い風となるだろう。
現時点では、来年は年央から年後半にかけて新型コロナのワクチン接種が広がり、コロナ禍は沈静化へ向かう可能性が高そうだ。経済活動の再開に伴いFRBの金融緩和姿勢に一服感が出てくれば、金はこれまで上昇していた分、巻き戻しの売りが出やすくなる。
投資家がリスク選好姿勢を強める場面では、金相場には下押し圧力がかかりやすい。21年は1600~1700ドル台まで調整の余地があると考えており、新型コロナの感染が深刻化する前の水準に戻っていく公算が大きいのではないかとみている。