(※この記事は12月3日に配信されたQUICK端末からの転載です)
チョコレートの原料であるカカオ豆の価格が高騰している。商品の場合、現物の需給バランスがタイト化した時に価格が上昇するが、今回の価格上昇はやや特殊なものだった。というのも、チョコレート大手のハーシーズがカカオ豆の現物調達方法を変更、先物取引所を活用して調達を行うことを決定し、11月の中旬に実際にICE市場で大量の買いを入れたことが影響したためだ。これによって、ICEカカオ豆の直近限月価格は、7月20日の安値である2,137ドル/トンから、11月24日には3,054ドルまで実に42.9%の上昇となった。
ただ、ハーシーズもいきなり先物取引所でカカオ豆を購入することを決めたわけではなく、コロナを契機とする需要の減少や、夏場までカカオ豆の価格が上昇していたこと、原産地からの購入価格体系の変更といった複数の要因が重なったことによっての決断である。
■生産農家に補償金
まず供給面については、主要生産国の政治的な問題が影響した。カカオ豆の最大生産国はコートジボワールで、FAOの2018年のデータを元にすると、そのシェアは37.3%に上る。次いで規模が大きいのはガーナで18.0%。この2国で生産規模は5割を超えるため、両国の生産動向が価格に大きな影響を及ぼす。アフリカのカカオ農家の多くは貧困にあえいでおり、子供が労働力として酷使されているとの報告もあって国際的に問題となっていた。そのため、コートジボワール政府とガーナ政府はカカオ豆の生産農家を支援するために、昨年から1トンあたり400ドルの補償金(Living Income Differential=LID)を支払うことを決定した。これにより、生産者からの購入価格は上昇することになる。チョコレートの生産者側もこの取り決めに関しては概ね合意していると伝えられていたが、1トンあたり400ドルのコストアップは、コロナの影響で業績が厳しい中では企業にとって小さい負担ではない。
なお、人為的に価格が引き上げられるとカカオ豆の増産につながる可能性があるため、市場としては適切な対応とは言い難い。OPECが原油の増減産を行って価格を調整しようとしても、価格が上がれば他国が増産してしまうので調整が上手くいかないことを見ればこれは明らかだろう。結果的に、生産者の不利益になる可能性があるためだ。ただし、現実的に補償金は導入された。
■内戦やラニーニャ現象のリスク
次に、最大生産国であるコートジボワールでは10月末に大統領選挙が行われ、現職のワタラ大統領が、憲法で二期までと定められている任期を無視して出馬し当選、これを不正として暫定政権を立ち上げる動きが出ている。このままだとコートジボワールの国内が混乱し、カカオ豆の供給に障害が出る、との見方が強まったことも価格を押し上げた。また、この20年を見るとラニーニャ現象発生時にカカオ豆価格が高騰することがしばしば起きている。このことも価格を押し上げに寄与した。こうした背景で価格が上昇し、ハーシーズが先物取引所を活用して調達するに至ったわけだ。
ただし、これに対してコートジボワール政府とガーナ政府はハーシーズが補償金の支払いを避けるために先物取引所を使ったとして共同書簡を公表、同社を非難している。今後、政治的にどのような決着をするかは全く分からないが、仮に先物市場からの調達を止める、ということになれば、大口の買い手がいなくなることから大幅な下落になると予想される。また、仮にこの取引を続けたとしても、アイボリーコーストに運ばれているカカオ豆は11月23日~29日が93,560トンと前年の78,934トンを大きく上回っており、政情不安はあるものの集荷は順調に進んでいると見られる。またコロナの影響による消費低迷もまだ続くと予想されるため、結果的にカカオ豆価格には下押し圧力が掛る展開が予想される。