【NQNニューヨーク=岩本貴子】原油先物相場の上昇の勢いが一服している。22日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場の指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物は前日比1.9%安の1バレル47.02ドルで取引を終えた。一時、新型コロナウイルスのまん延前の水準を回復した原油価格だが、短期的に一段の上昇の思惑は後退しつつある。
原油先物相場は前週末に一時1バレル49.28ドルと2月下旬以来の高値をつけ、新型コロナまん延前の水準まで戻した。しかし上昇の勢いは続かず、22日には1バレル46ドル台を付ける場面もあった。22日終値は前週末比4%安だった。
■航空向け期待持てず
感染力の高い新型コロナの変異種が英国で急速に広がっていることを受け、欧州を中心に多くの国や地域が英国からの入国停止に踏み切った。原油需要の3分の1以上を占めるとされる航空向け燃料の持ち直しに歯止めをかけるうえ、人の移動が減ることで世界的な景気の回復が遅れ原油需要を押し下げるとの懸念が強まった。
国際エネルギー機関(IEA)は12月の月報で、2021年の世界の石油需要見通しを日量9691万バレルと11月時点に比べて引き下げた。20年の実績見込みである9122万バレルから回復するものの、19年の実績は3%下回る水準だ。航空向け燃料の回復が従来予想より遅れることを想定している。ワクチン普及についても、IEAは石油需要に効果が表れるのは「数カ月かかる」とみている。
S&Pグローバル・プラッツのクリス・ミジリー氏は「ワクチンが幅広い層に行き渡るのは21年の後半に入ってから。それまでの数カ月は、各国で一時的なロックダウン(都市封鎖)になることは避けられないだろう」と分析する。特に景気やガソリン需要の持ち直しを主導する中所得者層は、新型コロナのまん延による所得の減少に直面しているうえ、ワクチンの接種も高齢者層などに比べて遅くなる。経済活動の再開が幅広い層に広がるには時間がかかるとの見立てだ。
■50ドル台は21年の終わり
供給増の警戒感も強い。原油相場の低迷を受け、サウジアラビアが21年予算で歳出を7%削る緊縮策を強いられるなど産油国の財政は厳しい。歳入を増やすために、石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなど非加盟国で構成する「OPECプラス」は21年1月以降、協調減産の幅を縮小し原油生産量を増やす見通しで、「OPECプラスは21年1月に開く会合で2月の減産幅のさらなる縮小を打ち出す」(リポー・オイル・アソシエイツのアンドリュー・リポー氏)との予想も出ている。
下値不安は徐々に後退しつつある。バンク・オブ・アメリカが4~10日に実施した12月の投資家調査によると、商品の持ち高を当初設定した配分を上回る「オーバーウエート」とした投資家から、下回る「アンダーウエート」とした投資家の比率を引いた値は18%と2011年4月以来の高水準となり、投資家は景気動向と連動しやすい商品相場の先行きに強気だ。プライス・フューチャーズ・グループのフィル・フリン氏も「欧州でロックダウンが広がっても原油需要の持ち直しは続く。ワクチンが普及すれば、米国の需要も回復し始めるだろう」として、強気の姿勢を崩していない。
それでも原油先物相場の指標となるWTI価格が心理的な節目となる1バレル50ドル台まで上昇するのは「21年終わりになる」(リポー・オイル・アソシエイツのリポー氏)。原油相場は緩やかな持ち直しが続きつつも、上値の重い展開になりそうだ。