【日経QUICKニュース(NQN) 藤田心】2020年は国際商品市場で原油相場が大きく動いた1年だった。ニューヨーク原油先物の1バレルあたりの年間値幅は100ドル超と、米国発の金融危機が市場を揺さぶった08年以来の大きさだった。新型コロナウイルス禍で年前半は大荒れの原油相場だったが、足元では落ち着きつつある。新型コロナのワクチン普及で経済活動が正常化に向かえば「原油は回復基調を維持する」との声が目立ち、「中東情勢次第では騰勢を強める」との見方も出ている。
■「最悪期は脱した」
20年のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物は新年早々動意付いた。米国とイランの緊張の高まりから1月に今年の高値となる1バレル65.65ドルを付けた。3月には一転、産油国の協調減産体制の崩壊や新型コロナの感染拡大による需要減退への警戒から相場は急落。4月には期近物がマイナス40.32ドルと史上初のマイナス価格を付けた。
ここまでの値幅はおよそ106ドルと、08年(約114ドル)以来12年ぶりの大きさとなる。秋以降は新型コロナのワクチンへの期待もあって相場は持ち直し、日本時間30日時点では48ドル台と2月下旬以来の高値圏で推移している。
21年の原油相場について、市場関係者からは堅調な推移を見込む声が目立つ。ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏は「最悪期は脱したとみられ、チャート分析上は45ドルが底値となった印象。当面は45~50ドルを中心に推移しそう」と話す。その上で、ワクチン普及で「経済活動の正常化が進み50ドル台に明確に乗せれば、取引参加者に安心感が広がるだろう」と読む。
あるエネルギー業界に詳しいエコノミストは注目点として中東情勢を挙げる。サウジアラビアではイエメンの武装勢力とみられる石油施設や石油タンカーへの攻撃が相次いでいる。米国で発足するバイデン新政権の政策次第では、中東情勢が不安定化する可能性がある。「株高が続くなかで中東情勢の不安が高まれば、一時的に60ドル台を試す展開になってもおかしくない」とみる。
■60ドル台の定着探るか
目先の焦点は1月4日に開催予定の、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」の閣僚級会合だ。OPECプラスは12月上旬の会合で、日量770万バレルの協調減産の規模を1月から50万バレル縮小することを決めた。今回の会合では2月以降の産油量について協議する見通しだ。
もっとも、12月の会合では1月以降の減産幅の調整は50万バレルの範囲内とされている。楽天証券の吉田哲氏は「大幅な調整の可能性は低く、相場の反応は限られそう」とし、21年の相場を「米シェール企業の生産量は減少傾向にあり、『コロナ前』水準である60ドル台での定着を探る展開になる」と予想していた。
外国為替市場では産油国通貨の上昇を見込む声も聞かれる。メキシコペソは3月下旬に過去最安値の1ドル=25ペソ台まで下落するなど原油相場に振らされる1年だった。マネースクエアの八代和也氏は「堅調な原油相場に加えて、バイデン政権への移行で対米関係が改善していけばペソ相場の支援材料になる」とみていた。