永田町と霞が関周辺では「4月政変」の可能性が浮上しているようだ。
長期政権目指した菅首相
大手メディア5社の世論調査によれば、菅義偉内閣が発足した昨年9月、内閣支持率は平均で67.8%だった。これは、憲政史上最長の政権となった第2次安倍内閣誕生時の60.2%を上回る非常に高い数字だった。衆議院の任期満了が2021年10月に迫るなか、自民党内では臨時国会での冒頭解散論が一気に高まっていたと見られる。
図表:世論調査による菅内閣の支持率
期間:2020年9月~12月 、出所:メディア各社の調査よりピクテ投信投資顧問が作成
しかし、菅首相は早期解散論にくみしなかった。仮に昨年10月に解散、11月の総選挙で自民党が圧勝しても、菅首相が2021年9月の自民党総裁選を免除される可能性は高くない。自民党の総裁任期と総選挙を同時期にして、長期政権を目指したようだ。総選挙に勝利した直後なら自民党を率いた菅総裁に対抗馬が立たない可能性があるからだ。
ところが菅首相は早くも厳しい逆風に直面する。最大の問題は、新型コロナ対応の遅れだろう。菅首相は総選挙を戦う上で経済を重視し、新型コロナの感染拡大による政治的インパクトを過小評価した感が否めない。結果として「Go Toトラベル」の一時停止が遅れた上、小池百合子東京都知事の巧妙な緊急事態宣言の要請にも応えざるを得なくなった。内閣支持率の急低下はダメージが大きいだろう。政権発足からわずか3カ月後の昨年12月、5社平均で41.6%へ下落している。
予算成立で力尽く?
感染増加が収まらない中、1月18日には通常国会が召集される。新型コロナ対策に関する野党の追及は避けられない。その結果、内閣支持率がさらに大きく低下すれば自民党内で「菅首相では総選挙は戦えない」との意見が急増する可能性がある。さらに、4月25日には衆議院北海道2区、参議院長野選挙区で補選がある。その結果次第では2021年度予算の成立とともに菅首相の政治力が尽き、自民党は新しい総裁のもとで東京都議会選挙にあわせて解散・総選挙に踏み切る。これが「4月政変説」のシナリオだ。
「4月政変説」はまだ最近の永田町界隈の話題の1つに過ぎないが、このまま内閣支持率が下げ続ければ、自民党は総選挙を控えて焦燥感が強まる。その場合、「4月政変説」が現実味を帯びてくる。
国内の政局が市場に与える影響はどうか。21年度予算の成立後であり、金融政策に大きな変更がなければ、マーケットに大きなダメージを与えることはないだろう。ただし、政治が不安定になると政策は一段とポピュリズム的なものになる。大胆な規制改革などは敬遠されるのではないか。
ピクテ投信投資顧問シニア・フェロー 市川 眞一
クレディ・スイス証券でチーフ・ストラテジストとして活躍し、小泉内閣で構造改革特区初代評価委員、民主党政権で事業仕分け評価者などを歴任。政治、政策、外交からみたマーケット分析に定評がある。2019年にピクテ投信投資顧問に移籍し情報提供会社のストラテジック・アソシエイツ・ジャパンを立ち上げ