【QUICK Market Eyes 片平正二】注目のイエレン次期財務長官の指名公聴会で、イエレン氏はさっそく共和党の洗礼を浴びた。ブルームバーグによれば、上院財政委員会のチャック・グラスリー委員長(共和党)は会の冒頭で「今は一連のリベラルな経済構造改革を片っ端から実行していく時ではない」と述べ、昨年12月には9000億ドル規模の経済対策が承認されたばかりと釘を刺したという。著名金融ブログのゼロ・ヘッジによれば、イエレン氏はバイデン新政権の環境政策に関連して「バイデン氏は堅調な電気自動車(EV)市場を作り、労働者がEVを構築するスキルを身に付けられるようにしたいと考えている。EVは気候変動に対処し、アメリカ人に良い仕事を生み出す良い方法だ」との見解を示したとのこと。バイデン氏の意向を受けてか、リベラル的な見解がうかがえた。
■イエレン氏への警戒感
米証券会社レイモンド・ジェームズは1月19日付のリポートで「イエレン氏は適切な財政支援がなければ、より長く、より痛みを伴う景気後退の経済的影響について警告した。特に個人の失業と住宅支援に加えて、優先分野としてワクチン配給のための援助、教育のための資金、および州/地方の支援に焦点を当てた」としながら、「イエレン氏が特に懸念しているのは、州や地方レベルでのレイオフが今後も経済の足を引っ張ることになり、州や地方からの強力な支援を求める民主党の主張を支持するだろうと警告していることだ」という。労働市場に配慮しているとみせかけて、民主党の主張に沿ったリベラル色の強い考えが出ていることを警戒した。
またイエレン氏は、連邦政府の最低賃金である時給15ドルが失業の原因になるという主張を後退させ、近隣の低賃金州に比べてこの賃金を実施している州ではそのようなことが起きていないことを示す経済研究を指摘したという。もっとも、同社は「この政策は、次の救済パッケージではあり得ないと考えている」とし、共和党が反対している最低賃金の引き上げが追加経済対策法案に盛り込まれる可能性は低いとみていた。
その一方で、イエレン氏が国際的なタックスヘイブン(租税回避地)に有利なように米国の課税ベースを浸食する最低限の法人税と規則がバイデン政権の中心になるとの見解を示したことにも着目。またイエレン氏は、富裕層へのキャピタルゲイン課税の調整についても検討する用意があるとしており、長期的に株式市場への悪影響が懸念されそう。さらに米国の制裁の優先順位を早期に見直すことで、米国の制裁体制への関心が高まっていることを示唆し、「制裁は、バイデン政権の中国とロシアに対する政策目標を追求する上で、より大きな影響力を発揮するために利用できると考えている」という。
■対中姿勢も厳しく
イエレン氏は中国を米国にとっての「最も重要な戦略的競争相手」(most important strategic competitor)と位置付け、知的財産権、強制的な技術移転、規制問題を米財務省の焦点としたとのこと。イエレン氏はまた、中国とロシアを標的とするサイバー攻撃に対応する手段としての制裁という考えにもオープンに見えたということから、国内政策では民主党内に配慮したかのようにリベラル色がうかがえた指名公聴会だったが、外交政策などでは対中姿勢への厳しさがうかがえるものだった。
ノムラ・セキュリティーズも19日付のリポートで「中国について質問された際、イエレン氏は、バイデン次期大統領の第一期の間も米中の緊張は非常に厳しく、米国はより多国間のアプローチをとろうとしているという我々の見解に沿って、『利用可能なすべてのツール』を用いて『中国の虐待行為』に対処する用意があると述べた」と指摘。為替レートについては、強い米国経済と市場が決定する為替レートを支持すると述べたことに着目し、「米国の貿易相手国による為替操作を批判し、国内経済の活性化のために時折ドル安を要求するトランプ政権の慣行から一歩踏み出した」と評価。新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題がくすぶる状況下、バイデン新政権の対中姿勢が意外に厳しくなるのではないかと期待させるものだった。
<金融用語>
タックスヘイブンとは
タックスヘイブンとは、英語表記は「Tax Haven」。外国資本や外貨獲得のために、税金を優遇もしくは免除している国や地域のこと。別名「オフショア」とも呼ばれる。モナコ、サンマリノ、マン島、ジャージー島、バミューダ諸島、バハマ、バージン諸島、ケイマンなどが有名。