【NQNニューヨーク 張間正義】米金融市場でリスク選好の動きが続いている。投資家心理を測る指標とされ、「恐怖指数」と呼ばれる米国株の変動性指数(VIX)は20近辺まで低下。さらなる低下を見込んでVIX先物の売りが膨らんでいる。
■「3月末までに正常化水準(19.5)に低下する」
1月21日の株式市場ではナスダック総合株価指数とS&P500種株価指数は連日で過去最高値を更新。債券市場は総じて落ち着いた展開だった。VIXは3日連続で低下し、21台前半で終えた。VIXはS&P500株価指数のオプションから算出する指数で、相場が落ち着く局面では低下しやすい。20を下回ると投資家の不安心理が後退した状態とされる。
米商品先物取引委員会(CFTC)によると12日時点で投機筋によるVIX先物は11万7609枚の売り越しと、新型コロナウイルスが拡大する前の2020年2月以来の水準まで膨らんだ。VIX先物への売りは将来のボラティリティー(変動率)の低下と、それに伴う株高を想定する投資家が増えていることを示す。過去最大に売りが膨らんだのは19年11月の21万8362枚だ。
米投資調査会社データトレックのニコラス・コラス氏は21日付の顧客向けメモでVIXについて「3月末までに正常化水準に低下する」と指摘した。同氏の分析では1990年以降のVIXの平均値(終値ベース)である19.5を正常化と定義した。
■VIXが平均値まで低下する営業日数予想
過去のVIXの急騰局面でピークから平均値に低下するまで最も日数がかかったのは08年9月に発生したリーマン・ショックだった。08年11月20日に80.9のピークを付け、その後273営業日後の09年12月22日に19.5まで低下した。
※VIX指数の推移
新型コロナ危機による金融市場の混乱でVIXがピークを付けたのが20年3月16日の82.7だ。リーマン・ショックと新型コロナは性質は異なるものの、経済に対して「需要蒸発」による落ち込みをもたらし、短期的な株安、その後の大規模な金融・財政政策で株式相場が大きく上昇したパターンは相似する。リーマン・ショック後にVIXが平均値まで低下した営業日数を今回に当てはめると3月31日までに正常化が見込めるという。
■「年内はボラティリティーの売りが最も収益を生む投資手法の一つ」
米長期金利の上昇が引き金となった世界的な株安である18年2月の「VIXショック」では、一時的に50を超えたが、ピークから平均値まで戻るのに要したのはわずか7営業日だった。この「VIXショック」は、VIXの急騰局面の分析としてはそれほど話題にならないという。
モルガン・スタンレーのファニキラン・ナラパラジュ氏は強力な政策当局の支援とそれに伴う金融市場の落ち着きを背景に「年内はボラティリティーの売りが最も収益を生む投資手法の一つ」と指摘する。
このところの株高については「肌感覚としてバブル崩壊を想定した株価指数先物売りやプット(売る権利)の買いは割に合わない」(米国株トレーダー)という。むしろ金利の低位安定と景気回復が併存する「ゴルディロックス」(適温相場)の継続を前提に、市場は一段のボラティリティー低下と株式相場のじり高を織り込みにかかっている。
<金融用語>
ゴルディロックスとは
ゴルディロックスとは、過熱もせず冷え込みもしない、適度な状況にある相場のこと。適温相場ともいう。英国の童話「ゴルディロックスと3匹のくま」に登場する少女ゴルディロックス(Goldilocks)がくまの家で飲んだ熱すぎず冷たすぎない、ちょうど良い温かさのスープにちなむ。 景気が過熱も失速もせず、緩やかな経済成長と長期金利の低位安定が続く程よい状態にある相場。