【QUICK Market Eyes 川口究】2020年のグリーンボンド発行額が過去最高を更新した。バイデン政権では気候問題への取り組みが大きく前進するとみられ、21年の発行額は20年さらに大きく上回る見込みだ。欧州では昨年、初めて再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料を上回った。その欧米が気候問題を通じて外交圧力を強めており、日本もカーボン・ニュートラルの実現に向けて気を抜けない状況にある。再エネ投資がより一層の加速していきそうだ。
■グリーンボンド発行額、日本は7位
環境分野に使途を絞ったグリーンボンド(環境債)の2020年の発行額は過去最高の2695億ドルに達し、21年は4000~4500億ドルに達する可能性がある。グリーンボンドの標準化作業を進めている英非営利団体のクライメイト・ボンズ・イニシャティブ(CBI)は1月24日にブログを通じて発表した。CBIによれば新型コロナウイルスの感染拡大による影響で20年は4~6月期に発行が大きく鈍化したものの、同7~9月期には回復し、通年で19年(2665億ドル)を上回った。20年の発行額のうち最大を占めたのはエネルギー部門で936億ドル、次いで、低炭素建築が706億ドル、その後に低炭素輸送・交通が637億ドルだった。発行額で日本は全体の7位(103億ドル)だった。
21年の拡大の背景にはバイデン大統領が気候変動問題への対処からパリ協定に復帰するとしていることや、多数の中央銀行や金融規制当局が持続可能性に基づく政策の進展などを挙げた。
■気候問題を通じての外交圧力
20日の就任初日に、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を表明し、カナダから米中西部まで原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設認可を取り消したバイデン大統領は今週に気候変動問題への取り組みに必要な政策をさらに打ち出す方針だ。ロイター通信は23日、バイデン大統領は早ければ27日にも新たな大統領令を発表する見通しで、内容は「国内における気候変動問題への対処と、気候変動問題を国家安全保障上の優先課題とする一連の規制上の行動」を開始するという包括的なものになるとみられると報じた。
また、バイデン政権で気候変動問題担当するジョン・ケリー大統領特使は、世界最大の温暖化ガス排出国である中国が20年9月に表明した削減目標(60年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ)は「十分ではない」と指摘。バイデン政権は気候変動問題への取り組みを一段と強化するよう、各国に外交的圧力を掛け始めたと明らかにした。
■再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料を上回った
欧州連合(EU)も化石燃料から世界的なエネルギー転換を進めるべく外交的な圧力を強めている。EU理事会は25日に「EUのエネルギー外交は、野心的な気候中立(温室効果ガスの実質排出ゼロ)性の道筋に沿っていない限り、第三国における化石燃料ベースのインフラ・プロジェクトへの更なる投資を抑制し、既存の化石燃料インフラの環境及び温室効果ガスへの影響を削減するための国際的な努力を支援する」と表明し、「自国の貿易政策及び貿易協定が気候変動に関する野心と整合的であることを確かなものとする」との方針を示した。そのEUでは20年に初めて、再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料を上回った。シンクタンクの独アゴラ・エネギーヴェンと英エンバーが25日に発表したレポートによれば、風力や太陽光など再エネ電力の比率は38%と19年から4ポイント上昇し、石炭火力などの化石燃料は3ポイント下がり37%となった。
■再生可能エネルギーへの投資拡大
欧米による脱炭素へ向けた圧力が強まる中、50年のカーボンニュートラル(炭素排出ゼロ)の目標に向けて日本においては再生可能エネルギーへの投資拡大が見込まれる。野村証券は14日付リポートで、2050年に再エネ発電比率を政府が参考値としている50~60%へ引き上げるには、「慎重ケースの電力需要30%増、再エネ電源比率50%でも、再エネ発電量を19年度比3.8倍、楽観ケースである同50%増、同60%では同 5.3倍へ拡大する必要がある」と試算した。政府は産業・家庭部門の電化により、50年の電力需要は現状より30~50%増加すると政府は想定している。
また20年12月公表の洋上風力産業ビジョンにおいては、洋上風力発電の導入目標を年間1ギガワット程度の区域指定を10年間継続し、30年までに10ギガワット、40年までに浮体式も含む30~45ギガワットの案件を形成すると設定した。ライフタイム全体での国内調達率目標を 2040年までに60%とし、国内に競争力のある強靭なサプライチェーンを形成し、経済波及効果も重視している。環境影響評価(アセスメント)や適地を見つけるなどの課題があるものの、24日には住友商事(8053)が化石燃料ビジネスを大幅に縮小し、洋上風力発電など再エネに注力するなど伝わっており、さらなる広がりも期待できそうだ。
※Quick Knowledge 特設サイト QUICKテーマ株:洋上風力発電より銘柄を参照
※期間は2020年1月23日を起点として1年間
<金融用語>
グリーンボンドとは
グリーンボンドとは、資本市場から温暖化対策や環境プロジェクトの資金を調達するために発行される債券である。 初期にはリスクが低く金利も低い国際開発金融機関のグリーンボンドが多かったが、最近では高リスクである代わりに金利が高い低格付けのグリーンボンドも発行されている。 欧州投資銀行(European Investment Bank: EIB)が、2007 年に発行した再生可能エネルギー・省エネルギー事業の資金調達に係る債券(Climate Awareness Bond: CAB)が、グリーンボンドの考え方の基になった。世界でのグリーンボンドの年間発行額はここ数年で急増しており、2016年の年間発行額は 810 億米ドル(前年のほぼ2倍)にのぼっている。 日本では、環境省がグリーンボンドを国内で普及させることを目的に、2017年に「グリーンボンドガイドライン」を策定した。(QUICK ESG研究所)