【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】5日の東京株式市場でマツダ(7261)が急伸した。2020年10~12月期は販売、コスト両面で改善が顕著になり、好感した買いが集まった。足元でくすぶる半導体不足という懸念を払拭するかのような21年1~3月期の見通しも投資家の目に頼もしく映った。株価は一時は制限値幅の上限(ストップ高)水準となる前日比18.5%高の960円まで上昇、まさにエンジン全開となった。そんなマツダを待ち受けているのは電気自動車(EV)市場での競争激化という自動車の戦国時代だ。
■サプライズ決算
マツダは4日、21年3月期の連結営業損益が従来予想していた400億円の赤字から損益ゼロまで改善する見通しになったと発表した。特に業績回復が顕著になった20年10~12月期は、連結営業利益が208億円と前年同期の3倍になった。営業黒字は3四半期ぶりだ。ここまでの改善は市場も「ポジティブサプライズ」と受け止めたようで、ホンダ(7267)やトヨタ自動車(7203)などと比べた株価の出遅れの修正は一気に進んだ。このところの外国為替市場での円安・ドル高傾向も株価の追い風だ。
営業利益の変動要因別に見ると10~12月期は台数・構成が49億円、固定費他が116億円の増益要因となった。北米を中心とした多目的スポーツ車(SUV)の販売持ち直しと、販売促進費などの抑制という両輪で黒字達成にこぎ着けた。販促費を多くかけなくても稼ぐ力が上向いていると受け止められた。コロナ禍で移動手段として自家用車が見直されていること、富裕層が旅行ができない代わりに車を買い替えようという需要が下支えしているもようだ。
※マツダの業績推移(21年3月期は会社予想)
21年1~3月期の意欲的な見通しも株高を後押しした。同期間の営業利益見通しは前年同期比2.8倍の320億円と、20年10~12月期に近いペースでの増益を予想する。マツダは4日開いた決算説明会で、半導体の不足により2月は海外工場を含めて7000台の減産影響が出ることを前提に生産計画を週次で見直していく方針を示した。21年3月期の業績予想にはこの前提を織り込んでいるという。
■EV時代の生き残り
ただ、マツダの中長期的な評価を高めるにはまだ課題があるようだ。SMBC日興証券の担当アナリスト木下寿英氏は4日付の投資家向けリポートで「マツダに対する最大の関心事はより長期的な時間軸であり、加速する電動化のなかでどう生き残るか」と指摘。「株式市場の見方を変えるには、例えば10~12月期決算でも計上されている環境規制対応費用が極小化するなど、構造変化に対して対応できることを収益面で示すことが必要であろう」とみていた。
※2019年末を100としてマツダやトヨタ、ホンダ、日経平均株価を指数化
マツダは得意とするクリーンディーゼル車からさらに踏み込んだ環境対応が求められる。その第一歩として1月末、同社で初めての量産型EV「MX―30」を発売した。かたやEV市場では米テスラが先行、あのアップルのEV参入も取り沙汰されている。「『アップルカー』が実現すればインパクトは相当大きい。クルマは自動車メーカーが売るものという既成概念は覆される」(国内証券の日本株担当者)と、電動化競争は一段と激しさを増しそうだ。一方、アップルのEVを巡っては、日本を含む複数の自動車メーカーに生産を打診しているもようとも伝わっており、日本メーカーにとって必ずしもマイナスになるとは言い切れない。
マツダは22年以降を「本格成長」と位置づけている。それは同時にEVという時代の熱が高まっていく時期でもある。ここまでの業績改善で成長期に向けた足場は次第に固まってきていると見て取れる。ここからはEV戦国時代での立ち位置をしっかり示すことが成長への確度向上、持続的な株高の条件になるだろう。