【日経QUICKニュース(NQN) 宮尾克弥】ソフトバンクグループ(SBG、9984)株が2月9日、株式分割考慮後で2000年2月以来、21年ぶりに1万円台に上昇した。8日発表した2020年4~12月期連結決算(国際会計基準)は、世界的な相場上昇を追い風に投資ファンド事業の利益が大きく拡大するポジティブな内容だった。孫正義会長兼社長は今後も投資先の新規株式公開(IPO)が続くとの見方を示しており、市場の期待感は強い。ITバブル崩壊時の過去最高値(1万1000円)が視野に入る一方、ハイテク関連株の動向に左右される業績だけに不安定感は拭えない。
■「ポジティブな印象」
ある国内運用会社のファンドマネジャーは「運用成績を考えるとSBG株を買わざるを得ない」と話す。決算を受けた証券会社の投資家向けリポートも「ポジティブな印象」(野村証券)、「投資ファンド『ビジョン・ファンド』は今後も多額の投資収益を計上する」(SMBC日興証券)と前向きな評価が多い。9日の株価は好業績を評価する投資家からの買いが流入し大幅高となり、一時前日比655円高の1万140円まで上昇した。
※ソフトバンクG株価と日経平均株価の相対チャート。(2020年始を100として指数化)
4~12月期の純利益は前年同期比6.4倍の3兆551億円と同期間で過去最高。昨年11月以降の世界的な株高を背景に20年4~12月期のファンド事業の投資損益は2兆7287億円の黒字(前年同期は7290億円の赤字)に改善した。特に10~12月期は1兆3557億円と4~6月期(2966億円)、7~9月期(1兆1150億円)から大きく伸びた。
※ソフトバンクGの業績推移(21年3月期はQC)
■政治リスクと米金利上昇に注意
「投資会社」だけに、投資先の新規株式公開(IPO)動向や公開後の株価がどう動くかがSBG株の価値を決める。20年3月期(前期)はコロナ禍で市場環境の悪化から損失が膨らんだ。その後の世界的な株高で業績は一気に持ち直したが、出資先の中国・アリババ集団株下落の影響などから孫社長が重要視するNAV(株主価値、保有株価値から純有利子負債を引いた値)は12月末時点で約23兆円と9月末時点から約4兆円減少した。
各国の政治情勢がアゲンストとなる可能性は大きい。アリババ株の下落は傘下のアント・グループがIPOの延期を迫られるなど中国当局との関係悪化が取り沙汰されたことが要因。一方、欧米でも「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)とされる大手ネット企業に対し、寡占状態への批判から規制を求める声は強い。当然、IT・ネット企業に多く出資するSBGには逆風となる。
米長期金利の上昇も注意点だ。コロナ禍における低金利環境はITをはじめグロース(成長)株の追い風となったが、経済の回復とともに米長期金利は上昇し今月8日には一時1.20%と20年3月以来の高水準を付けた。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは「政治リスクと長期金利上昇がSBG株にリスクなのは間違いない」とした。
ある国内証券ストラテジストは、「MBO(経営陣が参加する買収)の話などもくすぶり、実は保有するSBG株をどう扱うか、頭を悩ます機関投資家は多い」と話す。ただ、いま世界の株式市場の中心はやはりGAFAを中心としたハイテク関連。日本にはGAFAのような銘柄はなく「日本株ファンドは海外ハイテク投資することはできない。代替的に多くの海外ハイテク株に投資するSBGを買わざるをえない」(窪田氏)。ジレンマを抱える投資家は多そうだ。
<金融用語>
IPOとは
IPOとは、Initial Public Offeringの略。一般的には、(新規)株式公開とも言われる。少数株主に限定されている未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場し、株主数を拡大させて、株式市場での売買を可能にする。 新たに株券を発行して株式市場から資金を調達する「公募増資」や、以前から株主に保有されていた株式を市場に放出する「売出し」がある。 上場した企業は株式市場からの資金調達が可能になり、会社の知名度の向上によって、優秀な人材の確保が可能になるなどのメリットがある。一方で、投資家保護の観点から定期的な企業情報の開示(ディスクロージャー)が義務付けられる。