【QUICK Money World 佐藤 梨紗】2022年4月に誕生する東証の新たな市場区分「プライム」は、東証1部の上場企業にとって新たな試練となっている。プライムへの移行基準を満たせなかった企業は東証1部企業2192社のうち、30%に相当する664社になったと報じられた。QUICKが独自に試算したところ、流通株式の時価総額が基準の100億円に満たない企業は617社だった。業種別ではサービスや小売りなど内需型の企業がおよそ2割で、東証マザーズからの指定替えで1部に移行した企業は16%だった。基準未達となった各社は経営改革に踏み切るか、スタンダードなど他の区分に上場するか選択を迫られている。
流通株式時価総額が100億円に満たない617社を業種別に分析したところ、サービス業と卸売業、情報・通信、小売り、機械の5業種で半数を占めた。サービス業や小売りは内需型が多く、外需を取り込んだ成長は簡単ではない。第一生命経済研究所の嶌峰義清首席エコノミストは「特に小売りはコロナ禍の行動規制の影響を強く受け、業種全体が伸び悩んでいる」と話す。
■流通時価総額100億円未満 業種内訳
注:7月19日時点の株価をもとに作成
「東証1部上場」の看板は、長らく日本企業のステータスだった。社会的な信用力が高まり人材採用にも有利となる。東証1部企業は東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄となり、多くの機関投資家や日銀・年金などの投資マネーも流入しやすくなる。こうしたメリットを手に入れようと東証1部を目指す企業が増えた結果、現在では全上場企業の6割が1部指定となった。
目立つのは東証マザーズからの鞍替えだ。東証は2020年10月までマザーズ経由で1部に昇格する際の時価総額基準を40億円以上とし、1部に直接上場する際の基準250億円より大幅に緩和していた。新興企業のマザーズ上場を誘致する狙いがあった。
基準未達の617社のうち、マザーズから指定替えで1部上場となった企業は98社あった。目立った業種は情報・通信、サービス、不動産、小売りだ。いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は「情報・通信やサービスは近年の新規上場が目立つ業種で、成長途上にある企業が多い」と説明する。
■指定替えが目立つ業種
スマホゲームを手掛けるモバイルファクトリー(情報・通信)は14日、流通株式時価総額がプライム基準である100億円を満たさなかったと公表した。同社は2017年に東証マザーズから1部へ移行していた。2013年にマザーズから1部へ指定替えした駐車場運営のパラカ(不動産)も、流通株式時価総額の基準を満たせなかった。どちらの企業もプライム基準の充足を目指すとしている。基準未達でもプライム上場を目指すなら、東証に改善計画を提出しなければならず、足元では持ち合い株の売却などで、流通株式時価総額を増やす動きも目立っている。
日本経済新聞によると、東証は2191社の1部企業のうち、664社にプライム基準を満たしていないと通知した。「東証1部」ブランドを求めて上場を果たしたものの、最上位市場に上場する実力が備わっていなかったことを意味する。プライムに上場するなら改善計画の提出に加え、成長戦略の実践や株主構成の見直しなど抜本的な改革が必要となる。
最上位の市場を目指す企業に対し、東証のスタンスは少し異なる。東証はプライム市場を最上位の市場だとは位置付けていない。「スタンダード」「グロース」と並列の市場だ。上場企業が自社に適する市場を選ぶことで、3市場それぞれの特徴を生み出してほしいと考えているからだ。あくまでプライムを目指すのか、ほかの市場で成長を狙うのか、選ぶのは企業自身になる。
*QUICKが推定する流通株式数は、公開情報からできるだけ実態に近い数字を算出しておりますが、外部から正確に計算できない部分では実際の数値とかい離が生じている可能性があります。