「国際金融都市・東京」構想を推進する官民連携組織の一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)は10月23日から来年1月にかけて、独立資産運用業の開業希望者向けオンラインセミナー「Tokyo独立開業道場」(全4回)を開催する。独立開業道場の開催は今回で4回目。昨年度までは東京都が主催していたが、今年度からFinCity.Tokyoの主催となる。
東京都が2017年に掲げた「国際金融都市・東京」構想では、新興資産運用業者(Emerging Manager、EM)の創業・成長支援、誘致推進を掲げており、独立開業道場もその一環。都内で資産運用業の開業を目指す金融機関勤務者等に対し、独立開業のためのノウハウを提供する。主催者であるFinCity.Tokyoの有友圭一専務理事(写真右)と濱川明香シニアマネジャー(同左)に、独立開業道場にかける思いやEM創業支援の現状について聞いた。(聞き手はQUICK Money World 吉田晃宗)
――なぜ資産運用業なのか。
「日本の社会課題の解決という命題が根底にある。少子高齢化・人口減少のなか、日本が持続可能であるためには、国民・都民一人ひとりが持つ金融資産を有効に活用し、資金の流れを活性化させることが不可欠だ。さらに、終身雇用の限界や経済成長率の低下、長寿化等を受け、公的年金制度の破綻可能性が各所で指摘されており、代替策として家計の資産運用が注目されている。我々はその担い手である資産運用業の健全化・高度化を目指している」
――現状の資産運用業界の課題は。
「資産運用業の課題については以前から議論されてきた。大手運用会社の課題として、親会社である販売会社(銀行・証券)の影響力が依然として強く、販売中心のビジネスモデルになっているという問題点が語られている。景気動向にあまり左右されずパフォーマンス(運用成績)をしっかり出せるアクティブファンドマネジャーが育っていないのでは、という声もある」
「日本の運用業界が(海外で実質的に運用されているファンドを国内で販売する)輸入産業の様相を強めていることも問題だろう。輸入のためにはコストがかかり、それは投資家が負担することになる。国にとって死活問題となる産業が、輸入中心で良いのか、国産化しなければ長期的に困るのでは、という懸念もある」
「EM、つまり新興の運用会社が新たに生まれてくることも重要だ。ファンドのα(アルファ:市場平均を上回る超過リターン)は、設立後一定期間を経過したり、運用資産額が1000億円を超えたりすると減少するという学術研究がある」
――新興運用会社育成の具体策は。
「運用のプロを育む仕組みとして、ひとつは運用のプロを集積させて、クラスタ化することを目指している。情報、人材、顧客が集積することによってエコシステムができ、東京という都市の魅力が高まり、さらなる誘致や人材育成につながる。個性的なファンドマネジャーがたくさん集まり、切磋琢磨するようなエコシステムを東京に作りたい」
「世界各地に存在する新興資産運用業者育成プログラム(EMP)の東京版も設計した。これは、EMに投資するための共同ファンドのようなものだ。認知度が十分とは言えないが、高い運用成績を求める国内外のアセットオーナーのニーズに合致していると考えている。今後もプログラムの改善や、アセットオーナーへの普及を進めていきたい」
――国際金融都市構想を掲げてから4年。東京はどう変わったか。
「制度面では大きな進捗があった。税制では、2021年12月施行の法改正で、投資運用業でも一定条件を満たせば業績連動報酬を損金算入できるようになる。投資運用業を、公的融資といった信用保証制度の対象とする制度改正も予定されている。業登録時の英語、オンライン対応を認めるといったプロセス簡素化も非常に重要で、3か月でライセンスが取得できるようになった。装置産業的なミドル・バックオフィス業務のアウトソーシングについても、費用の一部を補助している」
「開業道場は、実務的な情報提供の場であるとともに、EMと士業等の専門家のマッチングの場となっている。昨年度、専門家への個別相談会には20名程度がご参加いただき、うち5名以上が創業に至っている。東京都がミドル・バックオフィス業務の補助対象として登録したEMも約20社に上る。さらに、アセットオーナーとEMのマッチングの場として、Tokyo Asset Management Forum(TAMF)を毎年開催しており、様々な面で支援の場を生み出せていると自負している」
――個人投資家や既存の金融業界に向けて、何か伝えたいことは。
「EMの開業支援は、個人投資家の方々にとっても無関係ではなく、長期的には投資先の選択肢を増やすことになる。関心を持っていただけるとうれしい」
「EM支援は、大手運用会社のトップにも応援していただいている。海外の投資銀行では、独立してヘッジファンドを設立した卒業生にプラットフォームを提供することで、ミドル・バックオフィス業務の収益化に成功した例がある。独立しても、ミドル・バックオフィスおよびシステム環境は、慣れている古巣を使いたいと思うものだ。また、独立者をどんどん出す企業こそ人材育成という点では健全であるし、人財輩出企業としてのブランディングにもつながると考えている」