【QUICK Money World 荒木 朋】原油やガソリン価格に関するニュースが世間をにぎわせています。11月には日米など複数の国がガソリン価格などの高騰を抑制するため石油の国家備蓄の放出を表明したかと思いきや、上昇トレンドを続けていた原油価格は新型コロナウイルスの新たな変異株確認を受けて同下旬に急落する場面がありました。エネルギー資源として関心の高い原油は、株式などと同様に取引することが可能です。これから原油関連商品の取引に挑戦したいと考えている人に向けて、売買できる商品の紹介や特徴、注意点などについて分かりやすく解説します。
WTI原油ETFの特徴は?
ネットや新聞などで目にする原油価格に関するニュース。この価格は通常、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引される「WTI原油先物」の価格が使われています。WTIは「ウエスト・テキサス・インターミディエイト」の略称で、米国テキサス州沿岸部の油田で産出される原油の総称です。WTI原油は、硫黄分が少ない高品質な原油で、巨大消費地である北米市場に近いことから世界で最も取引されており、世界の原油価格の指標になっているのです。
そのWTI原油先物価格に連動することを目指して運用する商品の1つが「WTI原油価格連動型上場投信(WTI原油ETF、1671)」です。WTI原油ETFは、東京証券取引所に上場している上場投資信託(ETF)で、原油先物取引に比べて少額投資が可能で、個人投資家でも気軽に売買できるのが特徴です。取引時間中であれば、株式と同じように1日に何度でも取引ができます。
原油ETFのメリット・デメリットは?
先にも述べた通り、原油ETFは少額投資できるのが大きな特徴の1つです。11月26日時点のWTI原油ETFの価格は1747円。最小売買単位は1口からとなっており、わずか数千円から取引が可能です。株式などと同様、ETF取引に関して売買手数料がかかりますが、手数料が安いネット証券を活用すれば、運用コストを抑えられます。保有コストとなる信託報酬も一般的に通常の投資信託に比べて低く抑えられています。
売買・保有コストが安い中で、原油ETFはWTI原油先物の価格に連動することを目指しており、WTI原油先物で売買することに少々ハードルが高いと感じる人にとっても、原油の先物取引をするのと同じ効果を得ることができる点もメリットといえるでしょう。
一方、原油ETFを売買する上でデメリットや注意すべき点は何でしょうか。WTI原油ETFは「先物型ETF」と呼ばれるタイプのETFですが、先物取引は決済の期日が定められているため、長期運用にはやや向かないといわれています。
また、満期のある原油先物を継続的に取引する際、満期前に期近物を売り、期先物を買う銘柄乗り換え(ロールオーバー)を行います。この時、保有コストや将来の価格の不確実性などから通常は期日の遠い先物(期先物)の方が期近物よりも価格が高い状態になります。
このように、期近物より期先物の価格が高い状態を「コンタンゴ」と呼びますが、この状態では「同じ商品(の期近物)を安く売って(期先物で)高く買い替える」ことになってしまうため、時間が経過するほど原油先物に連動する原油ETFも価格が減価していくことになるのです。
「コンタンゴ」については以下の記事をご覧ください。
<関連記事> |
もう1つ、注意すべき点としては原油価格の変動要因が多岐にわたることです。原油先物価格は世界の景気動向の影響を大きく受けるため、価格変動が起きやすいと言われています。また、北米地域では例年6~11月頃までがハリケーン・シーズンで、ハリケーンの勢力や進路状況によっては石油生産に影響を及ぼし、それが原油価格の大きな変動要因になります。中東など産油国が加盟する石油輸出国機構(OPEC)による価格や供給量の調整などの石油政策も原油価格に大きな影響を及ぼします。原油価格の動向を占う上で、こうした複数の材料を継続的に注視する必要があるのです。
日本で購入できる原油ETFは?
日本で購入できる原油ETFは、すでに述べた「WTI原油価格連動型上場投信(WTI原油ETF、1671)」のほか、「NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信(NF原油先物、1699)」や「WisdomTree WTI 原油上場投資信託(原油ETF、1690)」があります。
売買単位は、WTI原油ETFが1口単位、NF原油先物と原油ETFは10口単位となっています。信託報酬はそれぞれ0.935%、0.550%、0.490%。WTI原油ETFおよびNF原油先物については、マーケットメーカーが気配を提示して取引の流動性を供給するマーケットメイク制度の対象銘柄となっています。
※WTI原油先物(緑)と原油ETF(青)の過去1年の値動き
WTI原油 先物 の特徴は?
ここで、もう一度、原油ETFの連動対象になるWTI原油先物の特徴を押さえておきましょう。WTI原油は米国テキサス州沿岸部の油田で産出される原油で、含有硫黄分が少なく高品質なことから、ガソリンや軽油が多く採れる油種として知られています。
原油は米国だけでなく、中東や欧州など世界中の様々な地域で産出されており、WTI原油以外では欧州産の北海ブレント原油や中東産のドバイ原油などが有名ですが、これらの原油と比べてWTI原油先物は取引量と市場参加者が圧倒的に多く、市場の流動性や透明性が高いため、原油価格の中で最も注目される指標になっています。そのため、原油価格の代表指標にとどまらず、世界経済の動向を占う重要な経済指標の1つにもなっており、WTI原油先物価格の変動が世界経済全体にも影響を与えてしまうことがあるというわけです。
なお、先物取引(デリバティブ取引)については以下の記事をご覧ください。
<関連記事> |
初めてWTIを含む先物取引に挑戦する時のポイントは?
WTIを含む先物取引に挑戦する際のポイントは何でしょうか。
先物取引とは、将来の予め定められた期日に特定の商品をいくらで取引するか、契約時に決めた価格での売買を約束する取引です。実際に現物の原油を購入・売却するわけではなく、先物取引は将来の価格を予想して売買し、その売買益を狙いたい人のためのものです。
こうした商品特性を理解したうえで、まずは生活に支障のない余裕資金の範囲内で始めるのがいいでしょう。そして、日々の経済ニュースなどに注視しつつ地道にコツコツと取引を続けることが重要になります。なお、深追いすることは禁物です。自分の相場観と違った値動きをした場合は早めに見切りを付けて、損失が出た場合はさらに損失が膨らむことを避けるため潔く損切りすることが重要です。
WTI原油先物(先物取引)のメリット・デメリットは?
WTI原油先物を含む先物取引は、現物のやり取りを伴う取引ではなく、「◎月が期限の原油を◎円で買う」といった売買を約束する取引です。取引の際に必要なのはその取引の担保となる証拠金になるため、現物取引に比べて初期投資の資金が少額で済むほか、その証拠金を担保に証拠金の何倍もの金額で取引(レバレッジ取引)できるというメリットがあります。
先物取引では、自分の相場観や相場変動に応じて、「買い(建て)」だけでなく、「売り(建て)」の取引もできます。2021年のWTI原油先物相場は新型コロナウイルス禍からの世界的な経済回復に伴う需要の高まりなどを背景に上昇トレンドを続けていましたが、11月に入ると、同ウイルスの新たな変異株「オミクロン型」の確認をきっかけに急落する場面がありました。こうした局面で機動的に「売り・買い」を行うことで、相場の上げ局面でも下げ局面でも利益獲得を狙うことが可能になるのです。
半面、デメリットとして先物取引は決済の期日が定められているため、長期的な運用や保有には適さない点が挙げられます。また、先にも述べた通り、「コンタンゴ」という状態にも注意が必要になります。
先物取引では、レバレッジ取引が可能となるため、相場の見通しが外れた場合などには大きな損失を被る恐れがあります。少ない資金で大きな利益を狙える一方で、大きな損失を抱えるリスクがある点にも留意が必要です。
まとめ
WTI原油ETFは主に個人投資家向けで、少額投資が可能な手軽な商品といえる半面、様々な材料に反応するため価格変動も起きやすいのが特徴です。WTI原油先物は大きなリターンを狙えると同時に、その分のリスクも大きい取引となります。原油関連商品の取引に挑戦したい方は、それぞれの特徴やメリット・デメリットなどよく検討してから始めるようにしましょう。
※QUICK Money Worldは金融市場の関係者が読んでいるニュースが充実。マーケット情報はもちろん、金融政策、経済を情報を幅広く掲載しています。会員登録して、プロが見ているニュースをあなたも!