日本でも非上場企業に個人が少額で投資できる道が開けつつある。それが株式型クラウドファンディングと呼ばれる手法だ。投資した企業がIPO(新規株式公開)などにこぎ着ければ大きな値上がり益を得ることも可能だが、経営基盤がぜい弱なスタートアップ企業への投資はリスクも大きい。株式型クラウドファンディングを手掛けるイークラウド(東京・中央)は2018年の創業で、21年10月に暗号資産交換業を傘下にもつセレス(3696)から出資を受けたと発表した。代表取締役の波多江直彦氏(37)は「子どものころSF小説を読んで憧れた世界があった。そんな世界を実現できる夢ある企業を応援したい」と話し、個人投資家のリスクマネーの流れを変えようとしている。(聞き手はQUICK Money World佐藤梨紗、吉田晃宗)
――事業の状況について教えてください。
「業界の課題解決を意識して運営しており、創薬・バイオといった夢のある技術や、直販EC(電子商取引)系のベンチャー企業を中心に、現時点で9社の支援を完了した。資金を調達した企業から株式発行総額の15~20%を成功報酬としていただいている。企業からの問い合わせは多いが、実際の募集に至るのは、そのうちの数%だ。財務面の審査はもちろん、他の手段ではなくなぜクラウドファンディングで資金を集めるのか、その理由を詳しく確認している。調達後も個人投資家と付き合っていく必要があるためだ」
――ベンチャー企業をどのように支援していますか。
「個人投資家に安心して投資してもらうには、詳細な情報開示が必要だ。企業の魅力とリスクを伝えるためIR(投資家向け広報)支援には特に力を入れている。資金調達後も、創業初期にある企業には中長期の成長を支援している。株主総会やコミュニティ、株主向けイベントといった株主との関係構築に関するフォローはどこよりも手厚いと考えている」
▼イークラウドが自社で作成しているIRページの例。分かりやすいイラスト解説や目論見書のようなリスク項目の説明も
――資金調達を主導するリードVC(ベンチャーキャピタル)に近い業態に見えます。
「そこを強みと考えている。イークラウドで募集する企業はVC出身者などが厳選し、サポートしている。私自身、前職のサイバーエージェント(4751)でベンチャー投資に長く携わっていた」
「既存のVC案件との違いでいえば、イークラウドを利用する個人投資家は、経済的なリターンにも増して『自分ができないことをやっている人を応援したい』『社会課題を解決するためにお金を使いたい』といった精神的なリターンを求めている印象だ。SDGs(持続可能な開発目標)の考えが背景にあるのだろうが、ベンチャーがSDGsを打ち出しすぎるとNPO(非営利団体)のようになる。あくまで株式投資であるため、打ち出し方とタイミングが重要だ」
――個人投資家からみた株式型クラウドファンディングの魅力を教えてください。
「イギリスのフィンテック企業Revolutは、創業直後に株式型クラウドファンディングを利用したが、いまや非上場ながら時価総額3兆円を超えるユニコーン企業に成長した。個人には非上場株へのまっとうな投資機会がないと言われてきたが、状況は変わってきている」
「日本にはエンジェル税制という、一定の条件を満たすベンチャー企業に投資した個人が税制上の優遇措置を受けられる制度がある。iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)と並ぶ節税の手段として普及すれば、非上場株式への投資もより一般的になるだろう。実際、イークラウドの顧客の7割が税制利用を申請している」
――既存の金融機関とは連携していますか。
「地方には魅力あるベンチャーが多く埋もれている。たとえば我々の1号案件の地元カンパニー(長野県上田市)は、全国の地産品を作り手のストーリーと共に送るカタログギフトを提供しており、21年3月期の売り上げを前の期比3倍強の約2億円に伸ばしている。当社は魅力ある地方企業を発見するため5月から群馬銀行と提携しているが、今後は連携先を増やしたい」
「人材を募集中だ。特に金融機関を経験した若い人に来てもらいたい。大手の厳しい投融資ルールのため『投融資したいのにできない』ともどかしい思いをした人も多いのではないか。個人のチャレンジマネーを集め、夢のあるベンチャーを支援できる仕組みに魅力を感じてもらえたらと思う」
――流通市場の整備や暗号資産事業の展望を教えてください。
「非上場株の流通市場の整備は重要なトピックスだ。ただ、投資家には流通市場での売買ニーズはあるが、中長期の保有を期待している企業側には流通市場のニーズがない。海外のクラウドファンディング業界でも、非上場株の流動化に対する賛否は分かれている。慎重に考えるべきだろう。また、セレスとの連携や暗号資産の活用についてはまだ検討中の段階だ」