【NQNロンドン 菊池亜矢】独スポーツ用品大手のアディダスの株価が下げ止まっている。11月3日に年初来安値を付けた後は反転し、15日の終値は年初来安値を41%上回る132.12ユーロだった。2023年1月に新しい最高経営責任者(CEO)が就任予定で、変革の加速を期待した買いが入り始めている。
9日発表した22年7~9月期決算は、売上高が前年同期比11%増の64億800万ユーロだった。南米やアジア太平洋地域での売り上げが2ケタの伸びとなるなど成長をけん引した。一方、純利益は86%減の6600万ユーロ。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための厳しい規制が続いた中国の売上高が前年同期比27%減少したうえ、製品原価や輸送費の上昇が利益を下押しした。
同社は10月20日に22年12月期通期の純利益見通しを従来の13億ユーロから5億ユーロに下方修正した。その後、人種差別的な発言を繰り返していた米ラップ歌手のカニエ・ウェスト氏との協業を打ち切り、高い人気を誇っていた「イージー」ブランドの生産終了を決めた。年末商戦の需要が見込まれる時期と重なったことを考慮し、22年の純利益に最大で2億5000万ユーロのマイナス影響があるとの見通しを10月25日に公表。11月9日の決算発表時に改めて22年12月期通期の純利益見通しをさらに引き下げて2億5000万ユーロとした。
悪い材料が続くなかで、株価反転のきっかけとなったのが経営陣の刷新だ。すでに退任が決まっていたカスパー・ローステッド氏の後任として、2013年から独プーマの社長を務めるビョルン・ガルデン氏がCEOに就くと8日に発表し、業績改善への市場の期待が高まった。
ガルデン氏はサッカーとハンドボールのプロ選手として活躍。実業界ではデンマークのジュエリー会社パンドラのCEOやシューズ小売りの独ダイヒマンのマネージング・ディレクターなどを歴任し、スポーツ用品とフットウエアの業界に精通する。アディダスでは1992年から99年までアパレルとアクセサリー部門のシニア・バイス・プレジデントを務めていた。
ドイツ銀行は「プーマブランドを再活性化したという成功体験はアディダスにとっても有意義で、ガルデン氏が迅速に変革に取り組むことが期待される」と指摘する。ガルデン氏がCEOに就く23年1月を前に期待先行で株価が動いている面が大きいが、市場参加者はその手腕に注目している。