12月上旬は、ウクライナがロシア各地の空軍基地をドローンで攻撃したと見られる一方で、ロシアのプーチン大統領は「米国には予防的攻撃の理論がある」「(敵の核攻撃能力)を無力化する攻撃システムを開発している」として、核兵器を先制使用しないという軍事ドクトリンを正式に変更する可能性を示唆しました。他方で、米国は、ウクライナによるロシア本土への攻撃を支持していません。
戦局が思わしくないとされるロシアは「escalate to de-escalate戦略」(相手を思い留まらせるためにエスカレートしていく戦略)を取っていると言われますが、足元では、攻勢を強めるウクライナがエスカレートしており、事態は危ういように思えます。この一方で、マーケット参加者は、インフレや米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに気を取られているようです。
一部の元防衛省幹部は、ロシアが核兵器を使うとすれば、それは、「高高度電磁パルス(HEMP)攻撃」である可能性を指摘しています(→たとえば、渡部悦和など著『プーチンの「超限戦」』(ワニ・プラス)、鬼塚隆志著『国民も知っておくべき高高度電磁パルス(HEMP)の脅威』日本安全保障戦略研究所などを参照)。
HEMP攻撃は、地上での核爆発ではなく、地上数十kmから数百kmの高さで核爆発を起こすものです。爆風や熱風、放射線などによる人体への被害はないものの(→それゆえ「核攻撃ではない」と強弁される場合がある)、地上での核爆発よりもはるかに広範囲の電気・電子系統を損壊・破壊するものです。一国のほとんどすべての電気や電子機器が損壊すれば、ライフラインを中心に日常生活への影響は計り知れません。
今年の漢字一文字は「別」
2022年ももうすぐ終わりです。
12日に、京都の清水寺で発表された2022年の漢字一文字は「戦」でした。
筆者は、「別」を挙げます。われわれは2022年に、別次元や別世界に入り込んだように思えます。
2022年は、ロシアとウクライナの間で、約80年ぶりの戦争がありました。これにより、平和との離別が決定的となりました。またそれは、経済制裁や、資源・農作物輸出の抑制などを引き起こし、(折からのブレグジットやトランプ現象、気候変動対策、パンデミックに加えて)グローバル化との離別を後押ししました。世界は今後、いくつかの「極」に分かれていくものと見られます。
先週、TSMC(台湾積体電路製造)創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が米アリゾナ州を訪れた際に、「地政学上の大きな状況変化が起きた。グローバリゼーションと自由貿易はほぼ死んだ」と発言しましたが、まさにそのように思えます。
TSMCは同日、米アリゾナ州への総投資額を従来計画比3倍強の400億ドルとすると発表しました。2024年から4ナノメートルの半導体を製造するほか(→当初予定は5ナノ)、2026年には(現時点で)世界最先端の3ナノメートルの半導体も製造するそうです。背景には、米政府による巨額の補助金支援があります。他方で、米国は、中国への先端半導体の輸出を規制すると共に、日本やオランダにも同様の規制を設けるよう、働きかけています。かつてのCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)を思い出させます。
グローバル化との離別は、生産の非効率化(サプライチェーンの見直し)と市場の分断(マーケティングの見直し)を指しますから、インフレが示唆されます。また、米中対立は軍拡を示唆しますから、総需要拡大の観点からやはりインフレが示唆されます。
22年の別れ
2022年も多くの別れがありました。なにより、ウクライナの人たちも、ロシアの人たちも愛する人たちと別れることになりました。その心情は、青い空の下にいるわれわれには想像すらできませんが、同じ状況は、極東アジアに位置するわれわれにとって、近い将来の現実として捉える必要があるように思えます。
また、安倍晋三元総理との別れも大きいように思えます。評価は分かれると前置きした上で述べれば、国家安全保障戦略の策定や国家安全保障会議(NSC)の設置、国家安全保障局(NSS)の編成、特定秘密保護法の成立、平和安全法制の成立、米国との同盟関係の強化、日米豪印の協力枠組み「Quad(クアッド)」を含むインド太平洋構想など、彼の決断は、われわれの将来を救ってくれる可能性があるでしょう。まさに別格の戦略家である彼の経験や洞察に頼れないことは大きな損失であるように感じます。
2023年は、ロシア・ウクライナ戦争の停戦や、中国の経済再開といった分別のある決断によって「和」の一文字となることを願います。
2022年11月の振り返り
2022年11月は、ほぼ1ヵ月を通じて、米国のインフレ率鈍化と利上げ幅鈍化に注目が集まり、マーケットはそれら両方への期待から、金利が低下し、株価は上昇しました。
主な出来事は次のとおりです。
・イランが、ロシアに短距離弾道ミサイルや攻撃用ドローンを含む、約千の兵器の供与を準備との報道。
・米アマゾン・ドット・コムが今後数カ月にわたる新規採用の凍結を発表(→その後、1万人規模の人員削減計画が明らかに)。
・米連邦準備制度理事会(FRB)が金融安定性報告書で、米国債の流動性低下やドル高に伴う金融市場の急変動リスクを指摘。
・米ツイッターのイーロン・マスクCEOが従業員の約5割を対象にした人員削減を実施。
・米メタが1.1万人規模の人員削減を発表。
・中国で、新型コロナウイルスの感染者が増加。
・ロシアが、ウクライナ南部ヘルソン州の4分の1を占める要衝から撤退(→ドニプロ川の東岸へ撤退)。
・米中間選挙で、「レッド・ウェーブ」が起きず、民主党が上院の過半数を確保(→ジョージア州の決選投票では民主党候補が勝利。シネマ上院議員が離党するも、上院では民主党が過半数を確保)。
・中国政府が、不動産市場に対する包括的な金融支援策を発表。
・暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが破綻。
・日本で、次世代半導体の国産化を目指す新会社Rapidusが設立される。キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NTT、NEC、三菱UFJ銀行の8社が出資。
・トランプ前大統領が、2024年の次期大統領選挙への出馬を表明。
・ポーランドにミサイルが着弾し、2人が死亡(→ウクライナとNATOの見解に相違)。
・ロシアが、黒海の輸送回廊を通じた穀物輸出を可能にする合意に復帰。
・米マイクロン・テクノロジーが、半導体メモリーの2割減産を発表。
・北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を日本海に発射。
・米ツイッターのイーロン・マスクCEOが、2024年の次期大統領選挙で、共和党のデサンティス・フロリダ州知事を支持すると表明。
・台湾で統一地方選挙が実施され、蔡英文総統率いる与党の民進党が敗北。党主席の辞任を発表。
・米国の11月の雇用統計は、雇用者が前月から26.3万人の増加。
・ロシアのプーチン大統領が、ドイツのショルツ首相と電話会談し、米欧諸国によるウクライナ支援の停止を要求。
・G7諸国と欧州連合、オーストラリアは、ロシア産原油に1バレル60ドルの価格上限設定で合意。
・OPECプラスが11月に始めた日量200万バレルの減産に関する12月中の継続で合意。
・中国でゼロコロナ政策が緩和される。
・ロシア各地の軍事基地でドローン攻撃が相次ぐ。米国家安全保障会議(NSC)のカービー報道官は、関与を否定。ウクライナによるロシア領土の攻撃を支持しないとも述べた。
・インドのモディ首相が、ロシアのプーチン大統領との年内会談を中止する意向。
・ロシアのプーチン大統領が、核兵器を先制使用しないという軍事ドクトリンを正式に変更する可能性を示唆。また、西側諸国によるロシア産原油の上限設定に鑑み、原油減産を示唆。
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