先週の本欄では、
- 株価は景気後退の中で「大底」を付けることが多い、
- 具体的には、株価は「利下げの後」に「大底」を付けることが多い、
ことを確認しました。そして、上記が成立するための条件として次の2つを挙げました。
1.景気後退に向かう、
2.(利下げを始められるよう)インフレが鈍化する、
このうち、「景気後退」については先々週に考えましたので、今日は「インフレ」について考えてみます。
結論を言えば、インフレは、少なくともいったん(1-2年程度)は鈍化していくと考えています。しかし、問題は、インフレ鈍化の前に、インフレを鈍化させようとする利上げ、そして市場金利の上昇が続く可能性があるということです。
メッセージ①:株式の強気派がいま考えるべきこと
株式の強気派や成長株式を推す人たちにとってみると、インフレは敵であり、インフレの鈍化が必要です。インフレが鈍化するためには、おそらく金利の上昇が必要です。しかし、金利の上昇もまた、株式の強気派や成長株式を推す人たちには敵である、といったふうに「堂々めぐり」になります。
この問題には、明確な解決策があります。それは、今後の「金利上昇」と、それに続く可能性が高い「景気後退」の期間を含めて、資金を投じ続けることです。
いま、株式全般や成長株式を検討している人が考えるべきことは、「どこを見ていますか」「どこを取りに行くのですか」ということでしょう。
「目先は下がるけれども、それは想定している。その後の戻りを取りに行っている」といったふうに、資金を投じる目的を明確にし、それに沿って行動する必要があるでしょう。
メッセージ②:わがままな投資家へ
「戻りは取りたいが、目先の下げは嫌だ」というわがままな人向けに「対策」を提案するなら、景気循環にとらわれないアクティブ・ファンドに「逃避」することでしょう。そうすれば、目先の下げを減らし、逆行高を取れる可能性があります。ただし、ゼロサム・ゲームですから、成功するファンドは一握りです。
アクティブ・ファンドに投資する上では、そのファンドの投資哲学と、いまどんな銘柄をどんな理由で持っているか、ベンチマークとの保有割合の違いを確認されてください。みなさんが日頃、「共感」できる企業の商品を買うように、「共感」できるファンドを持つことが大事です。
投資は、自分の資産が増えたり減ったりするだけに留まらず、社会に影響を与えます。社会に影響を与えてしまう以上、投資家は、「買う企業」と「買わない企業」を積極的に選択することによって、自らの行動に責任を持つ必要があります。良質なアクティブ・ファンドは、インデックス・ファンドとは異なり、「投資家としてのあるべき姿」になろうとし、その本来の役割を果たそうとする存在です。
それでは、インフレを簡単にみます
先週は、1月分の米個人所得・個人消費支出(PCE)統計が公表されました。
【次の図】に示すとおり、前年同月比で見たPCEインフレ率は鈍化しています。強気派にとっては良好なサインです。
しかし、【次の図】に示すとおり、個人消費支出の6割超を占める「サービス」のインフレ率(前年同月比;直近は5.7%)を取ると、伸びが拡大しています。
【次の図】は「前月比」を見たもので、「足元の勢い・モメンタム」を確認できます。1960年からながめてみても、現在の「サービス」のインフレ率は「上昇の勢い」を保っていることがわかります。
強気派にとっての「よりどころ」は、【次の図】に示すとおり、1970年代の2度のオイルショックのように、「財」の供給ショックによってインフレが加速したケースでは、まず「財」のインフレ率が上がり、それが賃上げを促して「サービス」のインフレ率が上がり、反対に、鈍化するときも「財」が先で、「サービス」が後というふうに動きます。
この関係にしたがうと、今回も「財」のインフレ率が鈍化しているので、「サービス」のインフレ率も鈍化することになるかもしれません(→ただし、今回は、労働者による労働市場からの退出という「サービス」の供給ショックも起きています)。
ほかにもさまざまな指標がありますが、筆者も、インフレは、少なくともいったん(1-2年程度)は鈍化していくと考えています。しかし、問題は、インフレ鈍化の前に、インフレを鈍化させようとする利上げ、そして市場金利の上昇が続く可能性があるということです。
インフレの見通しを考える上では、金融政策に関する想定が必要
【次の図】に示すとおり、「サービス」のインフレ率と米国の政策金利とを比べると、まだまだ金利がインフレに追いついておらず、金融環境は引き締め的とは言えません。
1970年や1974年のケースでは、「サービス」のインフレ率の鈍化を確認しないまま、利下げに転じた結果、インフレの抑制に失敗しています。たしかに「財」の供給ショックは「一時的」なのですが、遅れてくる「サービス」のインフレの根絶を怠ったということでしょう。
このように、どうしてもインフレの見通しを考える上では、それをコントロールするための手段である金融政策について「なんらかの想定を置く」必要があります。
もしかしたら、これまでの大幅利上げによって(これ以上の利上げをせずとも)インフレは収まっていくのかもしれません。しかし、FRBにとって、「サービス」のインフレ率上昇を何もせず見過ごすことは(市場のインフレ懸念が再燃する恐れもあり)簡単ではありません。
今後の金融政策を考えると、米連邦準備制度理事会(FRB)としては、
1.過去の「経験」をよりどころに、「サービス」のインフレ率が鈍化してくるまで利上げを継続する可能性があるでしょう。合わせて、
2.金融政策の「理論」をよりどころに、政策金利を、「サービス」のインフレ率の水準を超えるまで引き上げる可能性があるでしょう。
まとめ
以上をまとめると、筆者の見立ては、
「インフレは鈍化する方向にあると考えられるものの、そして、FRBもそう考えているはずであるものの、FRBは利上げを継続せざるを得ない(→その結果、市場金利も上昇する)、その後にインフレの鈍化が見えてくるだろう」
というものです。
対策は、今後の「利上げ」と、それに続く可能性が高い「景気後退」の期間を含めて、資金を投じ続けることです。いま、株式全般や成長株式を検討している方は、あらためて「自分はどの相場を取りに行っているか」を思い返すことをお勧めします。
次回は、(おそらく)今日の話を受け継ぐかたちで、市場金利について考えてみます。
最近、読んだ本
(本節は、紹介する本をおすすめするものではありません。)
『安倍晋三 回顧録』(安倍晋三著、橋本五郎、尾山宏、北村滋ほか、中央公論新社、2023/2/8発売)を読みました。過去の政策決定や出来事において、安倍氏が当時どう考えていたかが語られます。すでにあちこちで案内があるとおり、中国の習近平・国家主席や、米国のドナルド・トランプ前大統領、バラク・オバマ元大統領、ロシアのプーチン大統領などの「人となり」を具体的に語っています。両国国技館の後のやりとりなど、思わず吹き出してしまう箇所もあります。
ただ、当然かもしれませんが、政治理念についての記述はあまりなく、そちらは『新しい国へ 美しい国へ 完全版』(安倍晋三著、文春新書、2013/1/20)に譲ることになります。
フィデリティ投信ではマーケット情報の収集に役立つたくさんの情報を提供しています。くわしくは、こちらのリンクからご確認ください。
https://www.fidelity.co.jp/
- 当資料は、情報提供を目的としたものであり、ファンドの推奨(有価証券の勧誘)を目的としたものではありません。
- 当資料は、信頼できる情報をもとにフィデリティ投信が作成しておりますが、その正確性・完全性について当社が責任を負うものではありません。
- 当資料に記載の情報は、作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。また、いずれも将来の傾向、数値、運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- 当資料にかかわる一切の権利は引用部分を除き作成者に属し、いかなる目的であれ当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。
QUICK Money Worldは金融市場の関係者が読んでいるニュースが充実。マーケット情報はもちろん、金融政策、経済を情報を幅広く掲載しています。会員登録して、プロが見ているニュースをあなたも!詳しくはこちら ⇒ 無料で受けられる会員限定特典とは