実生活や人間関係をドキュメンタリー方式で描くテレビのリアリティーショー。日本であまり定着しなかったが、米国では一世を風靡した。基本的に出演者は一般人。綿密な脚本がないため低予算で視聴率を稼げる。NBCが放送した「アプレンティス」も大人気で、司会役の実業家ドナルド・トランプ氏を一躍有名にした。トランプ氏の決め台詞「君はクビだ(You’re Fired!)」は流行語になった。
あれから約20年。トランプ大統領が米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長に「クビ」を言い渡す可能性が出てきた。トランプ氏は17日、SNS「トゥルース・ソーシャル」の投稿で、利下げが遅すぎるとパウエル議長に対する不満を表明。解任を示唆した。ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプ氏は数カ月前から非公式にパウエル議長の解任を検討、ウォーシュ元FRB理事を後任にする可能性を話し合っていたと伝えた。トランプ氏と側近がFRB議長の解任が可能か引き続き検討しているとのハセット国家経済会議(NEC)委員長の発言は幅広く報じられた。
FRB議長は大統領が指名し、連邦議会上院が承認する。任期は4年で、パウエル氏の任期は来年5月まで。米国のメディアによると、ルーズベルト第32代大統領によるハンフリー連邦取引委員会(FTC)委員の解任を棄却した1935年の最高裁判所の判断以降、特にFRBの独立性が重視された。1970年代に当時のバーンズFRB議長がニクソン第37代大統領の政治圧力に屈したことで深刻なスタグフレーションを招いた。市場関係者やエコノミストは歴史をよく理解しており、トランプ氏と側近のFRB議長解任をめぐる言動に危機感を覚えた。
フェイスブックの共同創業者として知られる起業家クリス・ヒューズ氏は18日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿文で、トランプ氏が金融政策の直接的な支配権を握れば、世界の金融市場はショック状態に陥るだろうと主張。影響はトランプ氏退任後も続き、物価は制御不能に陥り、基軸通貨としてのドルの地位を危うくすると警告した。ロイター通信は、FRB議長解任はあまりにも影響が大きすぎて、金融市場は相場に織り込めていないとのコラムを掲載した。
トランプ氏は自由奔放で予測不能。CNNは、中国との貿易戦争で物価高や品不足が近く現実になる可能性があり、スケープゴートとしてパウエル議長を批判しただけかもしれないと伝えた。解任の話を続けるだけでも、投資家の信頼を揺るがす可能性はあるとしている。米国債相場は下落(利回りは上昇)、ドルが売られ、米国株のボラティリティーが高まった。関税とあわせ、パウエル議長の将来の不確実性がリスク要因として意識される。投資家の米国離れがさらに進むとの見方は少なくない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。