【QUICK Money World 辰巳 華世】海運株は高配当銘柄が多く、個人投資家からの注目が高いです。今回は、個人投資家から人気の海運株について、海運株の特徴や上昇する時・下落する時の傾向、今後の海運株の見通しについて解説します。
■海運株とは
海運とは、船で人や物を輸送することです。日常生活で船に乗る機会はあまりないのでピンとこない部分がありますが、実は海運はわたしたちの暮らしに密接に関わっています。
島国である日本は、輸出入のほとんどを海運輸送に頼っています。生活に身近なスーパーで販売されている肉、野菜、果物などの食品や、雑貨、電化製品、原料となる部品や素材、そして電気を作るエネルギーとなる石油、石炭、天然ガスなど多くの物が船で運ばれています。海運がなければ、わたしたちの生活は成り立ちません。
あらゆる物を輸送する海運。その船にも運ぶ物に合わせていろいろな種類があります。いくつか例を見てみましょう。
・製品輸送
コンテナ船 | 食品や衣料品、工業原料などを海上コンテナに収納して運ぶ船 |
自動車船 | 完成自動車や建機等を専門に運ぶ船 |
・エネルギー輸送・資源輸送
油槽船、LNG船 | 油や液化天然ガス(LNG)を運ぶ船 |
ドライバルク船(ばら積み船) | 鉄鉱石や穀物等を梱包せずに(ばら積みで)運ぶ船 |
・旅客船
フェリー | 旅客と車両を一緒に運ぶ船 |
・海洋資源開発
ドリルシップ | 油田などの探査・掘削に使われる掘削設備を備えた船 |
FPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積み出し設備) | 海底油田で資源を生産、貯蔵、輸送するための設備を備えた船 |
海運株とは、海上輸送を事業としている銘柄です。例えば、海運大手三社の日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)などがあります。海運企業は物を輸送するビジネスを展開しているので景気に大きく影響を受けます。また、配当利回りが高く投資家から注目を集める銘柄が多いです。
■海運株の特徴
ここでは、海運株の特徴について見てみましょう。海運株には主に「船を使った海上運送をしている」、「国内の貿易に関わるビジネスのほとんどを占めている」、「景気の影響を受けやすい」といった特徴があります。
冒頭でも説明しましたが、海運株は船で物や人を運ぶ事業を中心に展開しています。島国である日本の輸出入のほとんどを海運に頼っており、海運株といえば貿易に関わる企業を指すことが多いです。
海運株は、国内貿易に関わるビジネスのほとんどを占めています。
そのため、景気変動の影響をダイレクトに受けやすいという特徴があります。海運株の行方を左右する貨物需要は、景気動向と密接に結びついているためです。業績も株価も景気の影響を受けやすい株のことを景気敏感株(シクリカル株)と呼びます。
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■海運株が上昇する時の傾向
海運株が上昇する時の傾向を考えてみましょう。海運株は景気敏感株なので、景気の影響をダイレクトに受けます。海運株は、「BDIやCCFIが高まる」、「世界的に景気が良くなる」、「物流需要が拡大する」などの場合に上昇する傾向があります。
・BDIやCCFIが高まる
海運株に投資する際に必ずチェックすべき海運指数に、バルチック海運指数(BDI)と中国コンテナ船運賃指数(CCFI)があります。
バルチック海運指数は、イギリスにあるバルチック海運取引所が公表する国際的な海上運賃の指標です。一方、中国コンテナ船運賃指数は中国発のコンテナ輸送料を数値化した指標です。いずれも世界の荷動きを読む上で重要です。
バルチック海運指数や中国コンテナ船運賃指数は、世界の貿易が活発化しているかどうかを見るのに役立ちます。貿易が活発であれば景気も良好となります。これらの指標は海運株との連動性がとても高く、バルチック海運指数などが高まると海運株も上昇する傾向があります。
バルチック海運指数と商船三井の株価
・世界的に景気が良くなる
世界的に景気が良くなった際も海運株の上昇が見込めます。世界中で消費活動が活発になったり、企業の生産活動が活気づくことで海運の需要も高まるからです。主要な経済指標が改善するなどして、景気が上向くとの期待が高まると海運株にも追い風になります。
・物流需要が拡大する
物流がひっ迫し需要が高まる際も海運株は上昇します。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた混乱が一服し経済活動が再開された際、一気に需要が増えたことで物流がひっ迫状態となり海上運賃が急騰しました。海上運賃が上昇すると海運株も上昇します。
■海運株が下落する時の傾向
海運株が下落する時の傾向は、「BDIやCCFIの下落」、「日本や貿易相手国の景気後退」、「長い期間の株価上昇後の利食い」、「船舶供給の増加」などが考えられます。
・BDIやCCFIの下落
バルチック海運指数や中国コンテナ船運賃指数の下落は、海運株の下げに影響します。一般的にこれらの指標は景気より先行して動く傾向があり、すぐに業績に影響が出るわけではないですが、景気に対する先々の不安が広がるためです。
また、海運業自体が好調であっても、こういった指標が下がることで下落を恐れて株を売る人は多いため、指標が下がった際は連動して海運株も下落する可能性が高いです。
・景気後退による下落
海運株は好景気時に上昇する傾向のある株のため、景気が悪くなれば下落する可能性が高いです。日本だけでなく貿易相手国の景気も大きく関係してきます。最大の貿易相手国である中国や、米国の経済動向にも注意が必要です。
・利食いによる下落
好景気が続いたことで株価が大きく上昇した株は短期売買資金も含まれていることが多く、株価上昇が落ち着いて来ると利食い売りをする人が増えます。長い期間の株価上昇後には、バルチック海運指標の下落傾向などをきっかけにした利食いで海運株が下落する可能性があります。
・船舶供給の増加
船舶供給が増加すると、市場に船が増えることで海上運賃が低下し、海運市況が悪化します。海運市況の悪化で海運株も下がります。
船舶供給は少し特殊です。例えば、今、船が足りなくてもすぐ市場に船を供給できるわけではありません。船を作るのには数年の時間がかかります。そのため、造船発注は数年先を意識して行います。
コロナの影響で海上運賃が上昇した理由の一つに需要に対して船が足りないという原因がありました。これを受けた造船の増加が数年後に顕在化することで、逆に需要に対して船があまる供給過多になる可能性が高いです。
■海運株の今後の見通し
コロナ禍の特需の影響もあり海運株はここ2年ほど上昇傾向にありました。特需を受けて配当が増額され、高配当株としても注目度が高まりました。ただ、需要のひっ迫で高騰していた海運市況のピークアウトも見られ、今後、海運株が下落するとの見方は多いです。
また、ロシアのウクライナ侵攻を受けて資源が高騰し、世界中でインフレ傾向が高まっています。世界各国の中央銀行が利上げに動いています。物価高騰や利上げは、消費活動の停滞や企業の投資抑制に繋がり景気が後退する可能性があります。景気が後退すると、物流量も落ちるので、海運需要が低調となる可能性があります。
ただ、一方で、ロシアのウクライナ侵攻によって、新たな資源調達のために原油やLNGタンカーの需要は高まっています。このためLNGタンカーや石油タンカーの運賃は上昇傾向にあります。こういった船を取り扱う株は上昇する可能性があります。
■まとめ
海運株とは、海上輸送を事業としている銘柄です。海運株は景気の影響を受けやすい景気敏感株(シクリカル株)です。海運株の投資には、海運市況であるバルチック海運指数などのチェックが必須です。高配当の銘柄が多い海運株に注目してみましょう。
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