【日経QUICKニュース(NQN) 寺川秋花】国内で金利低下の勢いに歯止めが掛かっている。利回りの低下(価格の上昇)が続くなか迎えた20年物国債入札で投資家の需要の乏しさが明らかになったためだ。とりわけ昨年までの世界的な金利上昇で含み損を抱えた銀行勢が利回り低下で手を引いているとみられ、金利が一方的に下がる局面は想定しづらくなりそうだ。
27日の国内債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが一時0.370%と前日比0.020%上昇した。財務省が27日実施した20年物国債(184回リオープン)の入札が「やや弱め」(国内証券の債券ストラテジスト)な結果と受け止められたのをきっかけに国内債には売りが加速。26日に0.350%と4月初旬以来の低水準になった長期金利は早くも低下幅を縮めている。
20年債入札では最低落札価格が102円30銭と、市場予想の範囲(102円35~45銭)を下回った。大きいほど低調な入札とされる平均落札価格(102円52銭)と最低落札価格の差(テール)は22銭で、前回5月(4銭)を上回って3カ月ぶりの大きさに拡大した。「低調」な入札結果が判明すると、流通市場では新発20年債利回りが0.950%から0.960%まで水準を切り上げた。
入札前から市場では警戒感が高かった。新発20年債利回りは心理的な節目である1%を大きく下回る水準で、26日には一時0.940%と約3カ月ぶりの水準まで低下。平均落札利回りでみると、今回の入札では0.948%と昨年9月(0.894%)以来の低さだ。昨年12月に日銀が長期金利で許容する変動幅の上限を引き上げる前の水準に戻り、利回り面から投資妙味は乏しい。
超長期債の投資に二の足を踏んでいるとみられるのが銀行勢だ。日本証券業協会が20日発表した公社債の投資家別売買動向(短期証券を除く)によると、都市銀行は5月に超長期債を1971億円売り越した。売り越しは6カ月連続だ。地銀も売越額は2741億円に膨らみ、529億円の買い越しだった4月や2746億円の買い越しだった前年同月と様相が異なる。
銀行勢が超長期債の保有を増やし、保有する債券のデュレーション(元利金の平均回収期間)を延ばすのに慎重なのは含み損を抱えているためだ。超長期債は中短期債に比べて利回り水準が高く、相応のキャリー(保有)収益が見込める。実際、20年債利回りが0.5%を下回るなど低金利が常態化していた2020年にかけて地銀を中心に銀行勢は超長期債の保有を増やしていた。
だが、高インフレに対応した世界の中央銀行による急ピッチな利上げに伴い欧米で金利が上昇し、国内でも超長期債の利回り水準が切り上がった。デュレーションを長期化すると金利上昇時に被る損失も大きくなるため、銀行勢は「新たにリスクを取りづらい」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤原和也氏)状況が続いているようだ。
銀行勢はデュレーションのリスクを避けたまま「(国債より利回りが高い)公募地方債や政府保証債に資金を振り向けているのではないか」(三菱モルガンの藤原氏)。日証協のデータでは5月にかけて地銀は公募地方債を7カ月連続、政府保証債を8カ月連続買い越していた。金利変動リスクよりも信用リスクを選ぶ形で、利ざやを確保しようとしている。
市場では日銀が7月に開く金融政策決定会合で政策修正に動くリスクが「一定程度残っている」(国内証券の債券ディーラー)といい、デュレーションの長期化を難しくしている。さらに株高を背景にした年金基金などによるリバランス(保有資産の配分調整)の債券買いが一服すれば金利低下も落ち着く公算は大きい。金利の先高観が完全に払拭されないなか、銀行勢が超長期債投資に回帰するにはまだ時間がかかりそうだ。