【日経ＱＵＩＣＫニュース（ＮＱＮ）　寺川秋花】金融市場で「エルニーニョ現象」への関心が高まっている。異常気象の多発に関係するといわれ、天候に左右されやすい農産物に影響が出かねないためだ。エルニーニョの発生と穀物相場の変動には一貫した法則性がないものの、今年は「ラニーニャ現象」が発生した直後とあって気温の急変が国際商品市況の波乱を招く可能性がある。

　米海洋大気局（ＮＯＡＡ）は８日、５月にはエルニーニョ現象が発生したとみられると勧告した。エルニーニョ現象は太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけての海面水温が平年より高くなる現象で、異常気象の原因になると考えられている。ＮＯＡＡによるとエルニーニョ現象は2023年から24年冬にかけて徐々に強まる見通しだ。日本ではより強力な「スーパーエルニーニョ」になる可能性も取り沙汰される。

　天候によって収穫高などが左右されるシカゴの穀物相場をみると、エルニーニョの発生時期と変動は一貫していない。特定の海域での過去３カ月の平均海面水温が少なくとも５連続でプラス0.5度を超えるとエルニーニョ現象と分類する米国の海洋ニーニョ指数（ＯＮＩ指数）でみると、00年以降では発生時期とシカゴ・マーカンタイル取引所（ＣＭＥ）の先物価格の３カ月移動平均との動きはバラバラだ。

　近年では08年のリーマン・ショック後に各中央銀行がそろって金融緩和に動き、市場にマネーを大量供給したのをきっかけにコモディティー（商品）の金融商品化が進んだ。「エルニーニョ現象は数ある相場材料の１つとなり、発生したから一概に相場がこう動くとは断言しにくい」（楽天証券経済研究所の吉田哲氏）

　だが、市場では影響を警戒する声もある。野村証券の大越龍文氏は「ラニーニャ現象からエルニーニョ現象に短期間で移行したことに注意が必要」と指摘する。ラニーニャ現象はエルニーニョ現象とは逆に海面水温が平年より低い状況が続くことで、足元では21年秋から23年初めにかけて発生していた。

　気象庁によると、エルニーニョ現象発生時に穀物の主産地である米中西部では雨が降る傾向にある。例えば米国産のトウモロコシは７月上旬の受粉期に適切な量の降雨があれば収穫量が増えて豊作の見通しとなり、先物価格は下落しやすい。

　しかし、野村の大越氏は「ラニーニャ現象の影響が残っている場合は乾燥リスクが懸念される」と警戒する。ＮＯＡＡは15日に米中西部では干ばつが急速に始まり、７～９月にはより広範囲になるだろうとの予報を出している。

　実際、作柄状況は芳しくない。米農務省（ＵＳＤＡ）が26日発表した作柄報告ではトウモロコシの「優」と「良」の合計は50％と前年同期（67％）より悪化。大豆の「優」と「良」の合計も51％と前年同期（65％）を下回った。作付けが順調に進んで豊作への期待感が出ていたこれまでの状況は変わりつつある。

　降雨であっても極端な天候となれば農産物には悪影響だ。収穫時期が迫る８月末から９月にかけて大雨となれば、ぬかるみなどで農業用の機械が畑に入れず収穫時期が遅れてしまう懸念もある。異常気象に伴う穀物価格の急変動で高インフレの抑制にてこずる各国中銀を悩ませ、金融・資本市場に影響を及ぼす可能性もあり、今後の天候がどのように移ろっていくかがさらに注目を浴びそうだ。