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【新NISAに向けて】企業の存在=利益の存在/株価下落を恐れる理由とその解消方法(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

先週の米国市場は久しぶりに「株価下落&金利低下の逆業績相場」でした。週間ベースで調べると6月19日週以来、18週ぶりのことです。

S&P500と米国10年国債利回り

とはいえ、マーケットは必ずしも「景気悪化や景気後退を織り込んだわけではなさそう」です。

株価のほうはといえば、米国の7-9月期の実質GDP成長率が年率換算で+4.9%となり、米国経済の堅調さが追認されるなか、おもに大手テクノロジー企業の決算で揺れたようにみえます。

先週のような変動性(≒下げ)の大きさをみていると、あらためて①「数少ない超巨大銘柄への期待が大きいままである」「数少ない超巨大銘柄を抱える、現在の米国大型株式市場の危うさを露呈している」ように感じます。市場参加者がいざ「本気で逃げる」ときには、資金が偏在してウェイトが大きい大型成長株式を換金する必要が出ます。

S&P500はごく一部の銘柄に依存する

現在の米国の大型成長株式市場は、かつての為替市場でよく見られた「円キャリートレードの巻き戻しで大幅な円高になる」という光景に似ています。当時でいえば「危ういとわかっていながら、円ショートでレバレッジをかけざるを得ない。そうしないと他のファンドに負ける」、いまでいえば「割高とわかっていながら(?)、大型成長株式をオーバーウェイトせざるを得ない。そうしないとベンチマークに負ける」といったようなものかもしれません。

大きくいえば、大型成長株式のロングは、投機というよりも、「グローバリズムは止まらない」「グローバリズムを擁護する情報誘導は打破できない」という見立てかもしれません。しかし、人類の歴史を思い出せば、あらゆる行き過ぎは反動を生みました。

他方の債券市場も「景気後退」というよりも、たとえばGDP統計の個人消費支出デフレーター(価格指数)の伸び鈍化を背景にした「利上げ織り込みの解消」にすぎません。

中東情勢の影響があるとしても、同情勢は、米国の財政赤字の拡大には深いかかわりをもつ可能性があるものの、(両岸を大洋に囲まれた)米国本土の地政学とは「いくぶんかかわりが薄い」と(いまのところ)みられているのでしょう。

米国の連邦債務は今後とも増加の見通し。戦争で債務は増える。

今後を考えると、米国の労働市場の堅調さはつづきそうで、そのかぎり、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げを開始せず、現在の政策金利を据え置くとみられます。

こうした「景気と金利の高原状態」が続くかぎり、その最中の小さな金利低下が歓迎されて「金融相場」(金利低下、株価上昇)へシフトし、しばらくすると、景気の強さが金利上昇に姿をかえて「逆金融相場」(金利上昇、株価下落)に回帰するとみられます。

新NISAと株式・リート・社債投資

さて、今週は「新NISAでの資産運用」について考えます。多くの個人投資家のみなさまは、新NISAの枠のなかで資産運用を完結できるはずです。
具体的には、

  1. 資本主義社会は、企業が利益を生み出すようにつくられている、
  2. 消費者で終わるのではなく、株主になって企業に渡した利益を取り戻す、
  3. 企業にとって家賃や利息の支払いは義務であり、家賃の支払い(≒リートの配当金)や銀行への利払い(≒社債の利息)は、株式配当などの利益処分に優先する、

の3点を確認します。

企業の存在は、利益の存在証明/株主になって企業に支払った利益を取り戻す

まず、【次の図】をご覧ください。この図は「今日食べたチョコレートの代金と企業活動・投資家との関係」をみたものです。

今日食べたチョコレートの代金と企業活動・投資家との関係

【一番上の茶色の板チョコの絵】のあたりをご覧ください。

たとえば、われわれは今日、コンビニで100円のチョコレートを買ったとしましょう。それは、企業にとっての売り上げです。

そのまま【下段の青】のところを【左】からにいくと、企業は、受け取った売上代金の100円から、材料費を支払い、給料を支払い、家賃を支払い、銀行に利息を支払ったうえで、利益を計上します。

言い換えれば、われわれが支払った100円には数十円の利益が含まれています。企業はこれをひたすら繰り返します。

企業はボランティアではないため、利益が出ないと解散されます。なかには、赤字で倒産する企業もありますが、たとえば日本では今日も300万を超える企業が存在しているという事実こそが、「社会全体でみれば、企業は利益を生み出している」ことの証明です。すなわち、「企業の存在=利益の存在」です。

リスクを取らず従業員になる人が存在し、リスクを取る企業に利益を渡すことで企業や株主はもうかります。リスク=利益であり、リスクと利益こそが資本主義社会の中心です。

「単にチョコレートの消費者で終わる」のではなく、「チョコレートをつくる企業の株主になれば、コンビニ経由で企業にいったん手渡した利益を取り戻すことができます」。

株主になって、手渡した利益を取り戻しましょう。

なぜわれわれは、株主投資を躊躇するのか。

世界で今日も多くの企業が存在し、それは利益の存在を証明しているにもかかわらず、なぜわれわれは、株式投資を躊躇するのでしょうか。それはおそらく「下落によって資産を減らすことが怖いため」でしょう。

仮に、毎年ピッタリ100万円の利益もしくは配当を確実に生み出しつづける企業があるとすれば、その企業のキャッシュフローは固定利付債券と同じですから、株価は一定になるはずです。

株価が変動する理由は、①将来の利益水準に対する投資家の見込みが上下したり、②株価を算出するために将来にわたる利益の列を現在に割り引いてくる割引率(=金利+リスク・プレミアム)が変化するためです。

たとえば、①毎年毎年の利益が100万円から120万円に増える(80万円に減る)と見込まれれば、株価は上がります(下がります)。

他方の②リスク・プレミアムは、「その企業が毎年100万円の利益を出す可能性がどの程度たしかか」を測っています。

たとえば、投資家が「100万円は間違いなく支払われる」と見積もれば、リスク・プレミアムはゼロになり、割り引くものが金利だけですから、その株式は永久国債と同じ評価になります。対して、「100万円が支払われる可能性が低い」と見積もられれば、リスク・プレミアムが高まり、割引率が上がって、株価は下がります。

株式が市場で取引されるかぎり、熱狂と悲観があるため、株価の変動は避けられません。

当然ながら、期待が高まったときに株式を買い、その後に期待が低くなれば、株式投資には実現損や含み損が生じます。

熱狂と悲観で株価が変動するのが怖いならどうすれば?①

では、そうした熱狂と悲観を株価から取り去る方法はあるでしょうか。

ひとつの方法は、積み立て投資を行うことです。

積み立て投資を行うということは、熱狂のときにも悲観のときにも購入するわけですから、熱狂と悲観のそれぞれを打ち消しあう水準で株価を買うのと同じです。

ITバブルのピークから、基準価額10,000円の米国株式投資信託につみたて投資を始めた場合の基準価額と平均買い入れ単価(持ち値)

熱狂や悲観とは関係なく、「企業の利益水準そのものが下がったら株価も下がる」と思われるかもしれません。たしかに個別の企業ならそうですが、社会全体や株式市場全体の企業の株式に分散投資を行えば、前々節の「企業の存在=利益の存在」という話に戻ってきます。

株主になることが怖いならどうすれば?②

もうひとつ方法は、株式の利益処分や配当などよりも優先順位の高いものに投資を行うということです。

次に【先ほどの図】を再掲します。【一番下の薄紫】のあたりをご覧ください。

今日食べたチョコレートの代金と企業活動・投資家との関係

先ほど、企業は、受け取った売上代金から、材料費を支払い、給料を支払い、家賃を支払い、銀行に利息を支払ったうえで、利益を計上すると述べました。こうした企業活動を金融資産に置き換えると、企業が支払う家賃はリートの配当であり【真ん中】、銀行に支払う利息は社債の利息【右から2番目】と考えられます。

優先順位を考えると、企業にとって、原材料費や給料、家賃、利息を支払うのは義務です。

それらの義務を果たせた企業が、株主に利益を分配することができます。ですから、リートと社債に対する利払いのほうが、株主の利益や配当などよりも優先されます。

ただし、社債やリートは、利息や配当金は優先的に支払われるとしても、企業の債務返済能力がどうか、金利がどうか、不動産市況がどうかで元本の価値は変動します。

そうした変動を排除するための方法はやはり、積み立て投資ということになります。

こうした「企業による支払いの優先順位」も皆さんが今後、どういった資産に分散投資をされるかの手がかりになるかもしれません。


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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