【QUICK Money World 荒木 朋】日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新しました。その後も日経平均の上昇は続き、史上初めて4万円の大台に到達しました。株式投資は「安い時に買って高い時に売る」のが基本です。その原則に従えば、日本株を今ここから買うべきか、迷う人もいるのではないでしょうか。しかし、ただ単純に絶対水準で「高い、安い」を判断することは間違っています。「安く買って高く売る」の本質を理解すれば、最高値更新が投資をためらう理由にはならないことが分かります。本記事では、日経平均株価が史上最高値を更新した背景を説明するとともに、高値圏にある日本株の投資を判断するうえで重要な視点や投資方法などについて、日本株投資に関心のある初心者の方にも分かるように詳しく解説します。
日経平均株価は34年ぶりに最高値更新
2024年2月22日の東京株式市場で、日経平均株価は800円を超す大幅高となり、バブル絶頂期の1989年12月29日に付けた3万8915円を上回り、34年ぶりに史上最高値を更新しました。その後も日経平均の上昇は続き、3月には初の4万円台に到達しました。現在も日経平均は4万円台での推移が続いています。2023年末の日経平均の終値は3万3464円でした。4万円台に到達した日経平均は、年初来わずか3カ月程度で2割上昇したことになります。
株価上昇の背景の1つは、好調な企業業績が挙げられます。日本経済新聞社の調べによれば、2023年10~12月期決算を公表した主要企業のうち、6割で純利益が市場予想を上回りました。「値上げや円安効果に加え、好調な米景気の恩恵を受けた企業で業績の上振れが目立つ」(日経新聞)といい、株価を押し上げる要因になりました。
東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業などを対象に資本コストと株価を意識した経営を要請していることを受け、各企業が株価対策に動き、結果として自社株買い発表額が過去4年で最高のペースに積み上がるなど、各企業が株主還元策を拡充・拡大していることも投資家を強気にさせる要因になりました。
主要企業の好業績と手厚い株主還元などを受けて、日本株式市場の売買代金の6割を占める海外投資家は日本株買いを活発化しています。東京証券取引所が公表する投資部門別株式売買状況によると、海外投資家は2024年1~2月の累計で日本株(現物株)を3兆円買い越しました。2023年も海外投資家は日本株最大の買い手となりましたが、年間ベースの買越額は3兆1200億円でした。2024年はわずか2カ月間で前年とほぼ同じ水準の買越額を記録しているのです。
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米国株が引き続き堅調に推移していることも追い風です。米市場ではとりわけ巨大テック5社「GAFAM(アルファベット=グーグルの親会社、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ=旧フェイスブック、アップル、マイクロソフト)」にAI半導体のエヌビディアを加えた「GAFAM+N」が米株高をけん引しています。日経平均を構成する銘柄は、東京エレクトロンなど半導体株を始めとするハイテク株の占める割合も大きいため、ハイテク株主導による米株高は日本株にも波及する格好となっているというわけです。
日経平均の採用銘柄について、2024年に入ってからの騰落率をランキングしたところ、騰落率上位20銘柄は以下のような顔ぶれになりました。
このうち、業種別で最も多かったのがハイテク関連の「電気機器」で5銘柄でした。パワー半導体などの売り上げが好調な富士電機が2位に入ったほか、半導体製造装置大手のSCREENホールディングス(スクリーン)、東京エレクトロン、半導体検査装置大手のアドバンテストも大きく値上がりしました。川崎重工業や三菱重工業、時価総額首位のトヨタ自動車など輸出関連銘柄も上位に入りました。上昇率1位になったフジクラをはじめ、直近決算が好調だったことを受け、通期業績見通しを上方修正する企業が相次ぎました。
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最高値からの暴落リスクは?
日経平均株価の過去3年の値動きを示したチャートは以下の通りです。このチャートをみて、この先の日経平均がどう動いていくのか、あなたはどう感じますか。
チャート形状を説明すると、日経平均は2021~2022年にかけてやや弱含みで推移した後、2023年前半の上昇から同年末にかけて横ばいで推移し、その後、2024年に入り急上昇しています。
楽観的な人ならこのまま上昇の勢いが続くとみるかもしれませんし、物事を慎重に捉える人なら上がり方が急すぎてここからの上昇よりも下げる可能性の方が高いと思うかもしれません。どちらの考え方にも一理ありますが、株式投資においては様々な投資尺度を用いた相対評価で、現在の株価水準が高いか安いかを判断することが重要です。
株式投資では「安い時に買って高い時に売る」ことが基本だと説明しました。しかし、株式投資においてはこの「安い、高い」をもっと丁寧な言葉に置き換えると「割安、割高」と言い換えることができます。
株価の「割安、割高」を測る投資尺度の1つに株価収益率(PER=Price Earnings Ratio)があります。PERは株価が1株当たり純利益(EPS=Earnings Per Share)の何倍まで買われているかをみる株価指標で、計算式は「PER=株価÷EPS」となります。
例えば、株価が1万円でEPSが1000円の企業の場合、PERは1万円÷1000円=10倍となります。仮に株価が2万円に上昇し、EPSが1000円のままであれば、PERは20倍に上昇します。この場合、企業の利益水準は変わらないのに、株価だけが上がることを意味するため、株価は以前と比べて「割高」ということができます。
一方、もし企業の利益水準が上がってEPSが1000円から2.5倍の2500円になり、株価が2万円になった場合、PERは8倍になります。株価は従来の2倍になったのにPERは低下しました。10倍まで買われるとすれば2万5000円まで上昇余地があり、2万円という現在の株価水準はPER基準では「割安」と考えることができます。
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PERという投資尺度を使って、4万円に到達した現在の日経平均がバブル期の1989年末と比べて割高なのか割安なのか調べてみましょう。日本経済新聞社によると、1989年末の日経平均を構成する銘柄の予想PERは62倍程度でした。一方、現在の予想PERは17倍程度で推移しており、バブル期の水準を超えた現在の日経平均はPERでみると決して割高な水準ではないことが分かります。
過去の日経平均のPERはおおむね14~16倍程度で推移しており、この基準で評価すれば今の日経平均は割高感が意識される水準に達しつつあるといえるかもしれません。PER=株価÷EPSの考え方を個別株式から株式指数にも応用すると、分母にあたるEPSが今後も増加するのであれば、日経平均の上昇余地も広がると考えられます。
日本経済新聞によれば、日経平均を構成する225社の来期(2025年3月期、3月期決算以外の24年度も含む)のEPSのアナリスト予想平均(QUICKコンセンサス)を積み上げると10%伸びる見通しとなっています。
企業活動のグローバル化が進む中で、日本株と世界の株価を相対評価することも重要です。日経平均は2024年に入り、1989年に付けた水準をようやく上回って史上最高値を更新しましたが、欧米などを含めた多くの主要株価指数ははるか前に過去最高値を更新し、上昇トレンドを続けています。
金融情報端末「QUICK Qr1」のデータをもとに1995年以降の日経平均とダウ工業株30種平均、ドイツ株価指数(DAX)の株価推移をみると、日経平均はダウ平均とDAXに大きく引き離されています。
ちなみに、東京証券取引所のプライム市場に上場する全銘柄で構成される東証株価指数(TOPIX)は、1989年末に付けた史上最高値をいまだに上回れていません。日本は数十年にわたるデフレ経済に悩まされ、経済力の低迷とともに株価も浮上に時間がかかりました。しかし、賃金上昇などにより日本経済はデフレ脱却が本格化するとの期待が高まっています。
世界経済は基本的に成長を続けており、その影響で世界の株価も右肩上がりの上昇トレンドが続いています。日本経済がデフレ脱却を確実なものにするなら、経済活動の拡大を通じて世界の株価と比較して相対的に出遅れている日本株にはさらなる上昇余地が広がる可能性があります。
過去にITバブル崩壊やリーマン・ショック、最近では新型コロナウイルス感染拡大により金融市場が崩壊し、実体経済の悪化を通じて株価も世界的に大きく値下がりする局面がありました。しかし、その都度、難局を乗り越えて株価は反発してきました。今の日本はデフレ脱却という大きな転換点を迎える可能性が意識されています。現時点の企業の収益体質もバブル期と比べて力強くなっており、企業の収益力の拡大余地の観点からも現在の日本株の水準は決してバブルとはいえないでしょう。
もちろん、世界を揺るがすショックが金融市場を再び襲えば株価にも下落圧力がかかることは避けられません。ただ、株価の最大の決定要因である企業の収益体質が強固になっている点や日本経済のデフレ脱却期待が高まっている点など、株価に追い風となる要因が少なくないことは事実です。日経平均の4万円台をただ単純に高いと判断するのではなく、日本の経済状況や企業の収益力などを分析し、株価がその実力に見合った水準にあるかどうかを冷静に判断することが今後ますます重要になってきます。
結局、今買ってもいいの?
日経平均株価が史上最高値を更新した背景や、現在の株価水準がPERなどの投資指標に照らし合わせて決して割高とはいえないことを説明してきましたが、結局のところ今買っても問題ないのでしょうか。
株価は上げたり下げたりしながらトレンド(方向性)を形成していきます。過去3年の日経平均のトレンドは以下の通りとなっています。
2021~2022年末にかけてはやや下降トレンドで推移していましたが、2023年以降は上昇トレンドに転換しています。株価は買いたい人(需要)と売りたい人(供給)のバランスによって決まりますが、上昇トレンドにあるということは需要が供給を上回っている状態だといえます。このトレンドが大きく転換しない限り、基本的に買い目線を維持することは道理にかなう投資行動といえそうです。
ただ、投資の方法や目的によって事情が変わってくるため注意も必要です。ここでは投資方法によってどのような行動をとるのが適切なのかポイントを簡単にまとめておきます。
【積立投資を始めたい人】
積立投資とは、一定の金額を定期的に購入しながら積み立てていく投資方法です。投資信託や新NISA(少額非課税投資)を利用した積み立ては少額から手軽に始められるうえ、売買タイミングを見計らう必要がないのがメリットです。また、時間分散のメリットも享受できます。一度にまとまった金額を買い付ける一括投資では、その時点の購入単価が損益の基準になります。しかし、積立投資では価格が高い時には相対的に購入量が減り、安い時は購入量が増えるため、結果として平均の購入単価を低く抑えられる効果が期待できます。投資期間が長くなればなるほど価格変動の影響やリスクを軽減させることができるので、今すぐに買い始めてもいいでしょう。
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【資産形成の一環として投資を始めたい人】
資産形成とは、資産を増やすために貯蓄や投資を行うことです。資産形成では長期的な目線で投資することが重要になるため、足元の最高値更新はさほど大きな障害にはなりません。積立投資のメリットでも説明したように、時間分散のメリットなどを利用してリスク分散を図りながら投資するといいでしょう。AIやロボット、宇宙など将来の成長が期待できそうな業種、配当収入が魅力的な銘柄など、自分自身が関心のある企業や投資信託などへの投資を検討してみてはいかがでしょうか。個別銘柄に投資する場合も一括投資することはなるべく避けて、積立投資と同じような感覚で期間を複数回に分けて購入するなど高値掴みのリスクを抑えることも重要です。
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【日本株上昇の流れに乗ってすぐに利益を上げたい人】
企業業績の拡大期待や日本経済のデフレ脱却期待などを背景に、日経平均株価は4万円の大台を突破し、上昇トレンドを維持しているため、基本的には買い目線を維持することは道理にかなうと説明しました。ただ、これはあくまでも長期的な見方であり、明日も明後日も上がり続けると言っているわけではありません。株価は上げ下げを繰り返しながら推移します。先行きの株価を的確に読み切るのは株式の専門家でも至難の業です。日経平均は特に2024年に入ってからの上昇スピードが急なため、高値警戒感が意識されつつあり、利益を確定しようとする人の売りが出て短期的に株価が調整(下落)する可能性は否定できません。こうしたことから、投資の初心者の方には短期利益を狙った拙速な投資はあまりおススメできません。
まとめ
2024年の日経平均株価は34年ぶりに史上最高値を更新し、4万円の大台を突破しました。好調な企業業績や米株高などを背景に、半導体などのハイテク株や輸出関連株などが日本株の上昇をけん引しています。買い遅れたり買いそびれたりした人にとっては、ここから日本株を買うべきかどうか悩むかもしれませんが、企業の収益体質の強化に伴う投資指標面での割安感や日本経済のデフレ脱却期待、世界の株価と比べた相対的な出遅れ感もあり、現在の日経平均の水準は決してバブルとはいえないと考えられます。短期的な利益を狙うような拙速な投資はおススメできませんが、長期的な目線に立てばまだまだ日本株に投資の魅力があるようにみえます。まずは積立投資などで日本株を買うことを検討してみてはいかがでしょうか。
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