【NQNニューヨーク=川上純平】日本の個人投資家の間では米国株への関心がかつてなく高まっている。日本を含む各国・地域の市場にも大きな影響を与える米株式市場では、マクロ指標や金融政策に加え、大型株やファンドの動きが複雑に絡み合って相場を形作っている。「米国株のABC」では米株式市場を読み解く上で知っておくと理解が深まる用語を解説する。初回は8月14日に7月分が発表される消費者物価指数(CPI)を取り上げる。
米国のCPIは今や世界で最も関心の高い経済指標の1つだ。新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした金融緩和や米政府の巨額支出で米国の物価が急上昇し、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営で「インフレ抑制」が最優先事項となったからだ。
CPIへの注目度は以前に比べ格段に高まったが、FRBが政策運営に使うのは米個人消費支出(PCE)物価指数だ。CPIや卸売物価指数(PPI)、輸出入物価など複数の指数を合成して算出し、調査範囲が広い。それでも、市場がCPIを重視するのはPCE物価指数の7割程度を占めるうえ、翌月中旬に発表される点で翌月末ごろ発表のPCE物価指数より速報性で勝るからだ。
CPIとPCE物価指数は、構成品目の比率や算出方法の違いもあって振れ幅が異なる。グラフに示した両指数の前年同月比上昇率をみると、CPIが比較的高めに出ることが多い。特にインフレが大きく進んだ際はその傾向が顕著だ。ここ数年で上昇率が最も高かった2022年6月は、CPIが9.0%だったのに対してPCE物価指数は7.1%にとどまった。
CPIは都市部に住む消費者を対象とする支出調査に基づき米労働省が算出する。家計がどのくらい食品や衣類、住居費、サービスなどに支出するかを踏まえて構成した、ある時点の「バスケット」を購入するのに要した費用を指数化する。PCE物価指数は全家計が対象となるほか、CPIでは対象外となる雇用主負担の保険料なども計算に含まれる。算出するのは米商務省だ。
CPIはPCE物価指数に比べて調査範囲が狭く、住居費の変動による影響が大きい。CPIのバスケットに占める構成比率は住居費が3割を超える。一方でPCE物価指数は保険や健康関連の割合も高く住居費の影響は薄まる。コロナ禍では在宅勤務の普及で都市部を中心に家賃が高騰。CPIをPCE物価指数以上に押し上げた一因になった。
インフレ沈静化への道筋が見え始め、雇用の下振れが米経済のリスクとなった今、FRBは物価の安定と雇用の最大化という2つの責務を重視する方針へ回帰した。それでも、コロナ禍後の米経済・物価動向は過去の経験則に当てはまらない面が多い。14日発表の7月のCPIの結果にかかわらず、CPIが雇用統計と並ぶ最重要指標の1つであることにかわりはない。
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