【QUICK Money World 辰巳 華世】円高基調が強まっています。1ドル160円台と歴史的な円安水準で推移していたドル円相場が反転し円高傾向が強まっています。今回は円高の株価への影響を中心に解説します。恩恵を受ける銘柄も紹介します。
2024年7月4日以降のドル円相場
円高とは
円高とは、外国通貨に対して円の価値が高くなっている状態を指します。数字を入れて説明すると1ドル160円が1ドル125円になっていたら円高になったことになります。円高とは、1ドルを手に入れるのに160円必要だったのが、1ドルを手に入れるのに125円で交換できることです。円から見ると、少ない円でドルと交換できるので、ドルの価値が下がっていることになります。ドルが安くなっているということです。為替相場では、交換する2つの通貨はシーソーの様な関係です。円高であれば相手の通貨であるドルは「安」となり、この場合、円高・ドル安となります。
別記事で円高・円安について詳しく解説しています。こちらをご覧ください。
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円高の株価への影響
グローバル化が進む今、為替動向は企業業績や外国資産に投資する投資家に大きな影響を与えます。ここでは、円高がどのように企業業績や投資家に影響を与えるのか、円高の株価への影響について見てみましょう。
輸出や輸入する企業にとって為替動向は業績に大きな影響を与えます。貿易には必ず為替が関係します。日本のモノやサービスを外国に売る輸出を考えて見ましょう。例えば米国に1台1万ドルで自動車を輸出したとします。1ドル=160円の時は、日本円だと160万円で販売したことになります。一方、1ドル=125円の時は、125万円で売ったことになります。円高の1ドル125円になった時の方が日本円ベースでの受け取り額が少なくなってしまいます。円高環境での輸出は企業業績にとってマイナス要因になることが分かります。円高は輸出企業にとって企業業績の悪化に繋がるので株価への影響はネガティブになる傾向があります。
一方、輸入企業にとって円高はメリットが多くなります。米国から1万ドルの製品を輸入するとします。1ドル=160円の時は、160万円支払う必要がありますが、1ドル=125円の時は、125万円の支払いで済みます。1ドル125円の円高になった時の方が日本円ベースでの支払い額が少なります。円高環境での輸入は企業業績にとってメリットが多いことが分かります。円高は輸入企業にとってはプラスなので、株価への影響はポジティブになる傾向があります。
外国資産に投資する国内投資家も為替の影響を受けます。円高になると外貨預金やドル建て保険、米国株などドル建て資産の価値が減少します。外貨預金を1万ドルしたとします。1ドル=160円の時、1万ドルの外貨預金は日本円で160万円です。1ドル=125円の時、1万ドルの外貨預金は日本円で125万円になります。円高になるとドル建て資産の価値が160万円から125万円に減少します。円高はドル建て資産にとってはマイナス影響になります。
24年に新NISAがスタートし、多くの個人投資家がNISAを活用して投資をしています。特につみたて投資枠で、オルカンと呼ばれる投資信託「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」やS&P500種株価指数と連動した投資信託などは人気の投資商品になっています。これらの資産の大部分はドルで運用されている商品です。円で資産を確認する投資家にとって円高は円換算の資産が減ります。円高環境でのドル建て資産は投資家にとってデメリットが多いです。
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株価と円高の関係では、一般的には円高は輸出産業への打撃などから株安に繋がると考える傾向があります。ただ、実際の株式市場を振り返ると、円高で株安になることもありますが、必ずそうなるわけでもありません。例えば、2019年は円高・株高となっています。ドル円相場を見てみると、4月に一時1ドル111円台を付け8月には1ドル104円台を付ける円高となりました。米中貿易戦争の激化が懸念され、リスク回避の動きが強まり円高が進行しました。1月1日から12月31日の1年で見てもドル円相場は109円台から108円台と円高となりました。
2019年のドル円相場
一方、日経平均株価は、世界経済の減速懸念の後退や年後半に米中貿易摩擦問題の進展が見られ外部環境が改善したことで株高となりました。大発会の1月4日に1万9561円だった日経平均は年末の大納会では2万3656円の株高の1年でした。他にも2016年も円高・株高の1年となっています。この様に、過去のマーケットを見ると必ず円高が株安に繋がるとは言い切れません。市場を取り巻く環境によって株価の反応は異なることが分かります。
2019年の日経平均株価
24年入り日経平均は一時4万2000円を超えるなど上昇を続けてきました。円安を背景に海外投資家が日本株を買い増してきたことが背景の一つです。ただ、7月以降、ドル円相場が円安から円高に反転したこともあり株価は下落基調となっています。円安から円高への反転の大きな理由は、日米金融政策の方向性の違いから今後は大きく開いていた日米金利差が縮小することが意識されているからです。
2024年の日経平均株価(2024年10月時点)
今回の円高と株安の関係について、「円高からの株売り」なのか、「株売りによる円高の加速」なのか、ニワトリと卵の部分があるとの見方があります。 これまでの円安環境下で外国人投資家は、日本株を買うと同時に、円売りポジションを取る為替ヘッジを行っています。株価下落局面となり、外国人投資家は、これまで積み上げてきた日本株を売却するとともに為替ヘッジの円売りポジションの解消として円の買い戻しもしています。日本株売却に伴う為替ヘッジの解消が円高圧力を一段と強めているとの見方もあり、「円高からの株売り」とも、「株売りによる円高の加速」と、どちらとも言える側面がありそうです。
円高の私たちの生活への影響
円高の私たちの生活への影響について見てみましょう。円高は私たちの暮らしにはメリットが多いです。輸入コストが下がるので物の値段が安くなる傾向があります。日本は石油などエネルギーを輸入に頼っているので、円高は電気やガス代にとっては値下げ要因となります。食品など輸入品が安く買えるほか、海外旅行なども行きやすくなります。
一方、円安はその逆になります。円安は私たちの暮らしにとっては厳しい環境になりやすいです。円安については以下の記事で解説していますのでご確認ください。
<関連記事> ・円安が止まらない原因とは? 円安が進むとどうなる? わかりやすく解説します!(資産形成イロハのイ) |
円高によって恩恵を受ける銘柄をチェック!
円高によって恩恵を受ける銘柄を見てみましょう。一般的には輸入企業は輸入コスト下がるのでメリットが多いです。原油などエネルギーや大豆、小麦、トウモロコシなど食糧、紙やパルプや木材、輸入家具などがあります。中部電力(9502)、大阪ガス(9532)、日清製粉グループ本社(2002)、ニトリホールディングス(9843)などがあります。また、円高になると海外旅行に行きやすくなるので旅行会社や航空会社なども恩恵を受けます。エイチ・アイ・エス(9603)、日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)などです。
円高によって恩恵を受ける銘柄 | |
9502 | 中部電力 |
9532 | 大阪ガス |
2002 | 日清製粉グループ本社 |
9843 | ニトリホールディングス |
9603 | エイチ・アイ・エス |
9201 | 日本航空 |
9202 | ANAホールディングス |
一方で、為替動向の影響を受けにくい銘柄にも注目したいところです。為替感応度が低い銘柄として、Sansan(4443)、マネーフォワード(3994)、ジャストシステム(4686)、MonotaRo(3064)、日本M&Aセンターホールディングス(2127)、翻訳センター(2483)などがあります。
為替動向の影響を受けにくい銘柄 | |
4443 | Sansan |
3994 | マネーフォワード |
4686 | ジャストシステム |
3064 | MonotaRo |
2127 | 日本M&Aセンターホールディングス |
2483 | 翻訳センター |
まとめ
グローバル化が進む今、為替動向は企業業績や外国資産に投資する投資家に大きな影響を与えます。円高が進むと輸出企業にとってはマイナスの影響があります。一方、輸入企業にとっては安い値段で仕入れができるのでプラスです。ドル建て資産を保有する投資家にとって円高はドル建て資産の価値が減少します。一般的に円高と株安がセットに見られがちですが、必ずそうなるわけでもありません。市場を取り巻く環境によって株価の反応は異なります。
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