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マールアラーゴ合意とはなにか② 「円のファンダメンタルズは円安」だから、ドル安・円高調整は不当?(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2025/3/19 16:00 最終更新日 2025/3/19 16:00 米国・欧州 為替・金利 米金利 フィデリティ

※この記事はフィデリティ投信のWebサイトで3月13日に公開されたコラムの転載です

金融市場が調整を見せています。これについては、以前の記事「継続投資で成果は変わる/ピーター・リンチの言葉」をご参照ください。

さて、3月4日に、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長は、欧州の防衛力を強化するため、最大で8,000億ユーロ(約125兆円)の資金投入を目指す計画を発表しました。また、2月25日には、英国のスターマー首相が、国防費を2027年度に国内総生産(GDP)の2.5%、2030年度頃には同3%に引き上げると表明しています。欧州人の一部は、ロシアに脅威を感じているものと思われます。

これらの報に接した筆者の耳には誰かしらの高笑いが鳴り止みません。もちろん、「誰かしら」とはトランプ氏でもプーチン氏でもありません。

欧州人の一部はなぜ、ロシアに脅威を感じるのか。また、日本人の一部はなぜ、中国やロシアに脅威を感じるのか。われわれは歴史に立ち返り、その理由を改めて考えてみるべきでしょう。

ここからは前回の記事「マールアラーゴ合意とはなにか① 準備通貨供給と安全保障の一体性」のつづきです。あらためて、スティーブン・ミラン氏の考えの一部である「マールアラーゴ合意」について、ひとつずつ、順を追うと、

  • マールアラーゴ合意は、プラザ合意と同様、新たなドル安調整の枠組みです。
  • マールアラーゴ合意によって目指すものは、①米国に製造業と雇用を戻すこと、および②米国の公的債務≒米国が提供する「安全保障の傘」を持続可能にすることです。
  • ミラン氏は、米国から製造業と雇用が失われた主たる要因をドルの過大評価と考えています。

ドルの過大評価を是正するマールアラーゴ合意は一見すると、介入主義に映るかもしれません。しかし、実際にはその真逆です。トランプ政権幹部の考えが明らかになるにつれ、「マールアラーゴ合意は自由市場・非介入主義的な世界を目指すための一歩」と筆者の目には映っています。

【Q5】ミラン氏はドル高の理由をいかに捉えているか?

では、なぜドル高は生じているのか。

この点について、ミラン氏は、シンプルに、米国が供給する「準備通貨(米ドル)や準備資産(米国債)に対する非弾力的な需要」が米ドルの過大評価につながっているとしています。

「準備通貨や準備資産に対する非弾力的な需要」とは、財務省や中央銀行など、外国の通貨当局は、為替レートや国債価格のバリュエーションを考慮せずに、ドルや米国債を恒常的に欲する状況を指しています。

他方で、民間の投資家の場合には、たとえば、経常収支や対外債務残高など、各国のファンダメンタルズを考慮して取引を行い、市場レートは長期的にはファンダメンタルズに収れんしていくことが期待されます。

実際、そのようなファンダメンタルズに基づく市場取引によって、1992年の英ポンド危機や1997年のアジア通貨危機は生じました。最近では、2010年~12年頃の欧州ソブリン債務危機もそうです。逆バブル的な状況(≒投機的な水準にまで欧州の一部国債を売却する状況)もあったかもしれませんが、金融市場は通貨や国債の価値を探ろうとしました。

このように、英ポンドやアジア通貨に留まるどころか、ユーロまで危機に陥った一方で、米ドルに関して言えば、(資本移動の規制が存在し、自由市場ではなかった)1960年代こそ、米国政府は利子平衡税やオペレーション・ツイストなど、あの手この手で「ドル防衛」を迫られました。しかしながら、1970年代に原油生産で中東が圧倒的優位に立ち、原油のドル決済が広がって以降、危機らしい危機はほとんど生じていないと言ってよいでしょう(→ただし、最近は、ドルや米国債を手放し、ゴールドを積み上げる国も少なくありません。その主たる理由は「将来の経済制裁を回避するため」かもしれませんが、「ドルや米国債の先行きに不安を感じている」といったファンダメンタルズに基づく売りの要素もあるでしょう。かかる状況を指して「ドルの危機」と形容されるかもしれませんが、筆者にしてみれば「不換紙幣全体の危機」に思えます)。

話を戻します。ミラン氏の主張を整理・補足すれば、次の3つの経路が「米ドルに対する非弾力的な需要と米ドルの過大評価」につながっているでしょう。ミラン氏の主張から漏れ出てくるような、重要な問いかけは「外貨準備は必要なのか」です。

  • 【外国の通貨当局による、貿易決済のための準備・決済通貨の蓄積】 原油を始め、多くの財やサービスは米ドル建てで取引されており、数ヵ月分の輸入決済をカバーするために米ドルを確保することが日常的です。ただし、①ブレトン・ウッズ体制前半の(「ドル不足」に悩まされた)日本や欧州などの国々では、輸出の範囲内に輸入を制限する管理貿易によって、外貨準備を使わないよう努めていました。こうした管理貿易政策は、今日ほどの貿易の不均衡を生じさせない仕組みのひとつと考えられます(→ただし、ブレトン・ウッズ体制下と同様に、資本取引についての制限も必要でしょう)。また、やはり外貨準備に頼らずとも、②輸入が輸出を上回る状況が恒常的になれば、A.ブレトン・ウッズ体制下では自国通貨の切り下げによって、B.自由市場では自国通貨に下落圧力が生じることで、貿易赤字が減少するメカニズムが存在します。こういうと、「それは平時が想定されている」と言われるかもしれません。しかし、ある国が「準備通貨を供給する国の安全保障の傘」にあるかぎり、有事のドル調達に懸念はないでしょう(→たとえば、バイデン政権下のウクライナがその例)。反対に、「安全保障の傘」の下にない国は、有事における経済制裁によって、外貨準備は使えなくなってしまうわけですから(→ロシアがその例)、有事のためにドルを蓄積しておくことには、「傘」の下でも外でも、大きな意義はないかもしれません。
  • 【過去にあちこちで生じたような通貨アタック・通貨の売り投機に備えるための外貨準備の蓄積】 この点からの外貨準備蓄積は有用とは言えません。なぜなら、そうした通貨アタックは「対外債務の過剰な蓄積」や「持続可能ではない固定相場制」によって生じる場合が多く、ドル売り/自国通貨買い介入で対処するよりも、脆弱なファンダメンタルズに即した「自国通貨安や内需の抑制⇒貿易収支の改善」がむしろ適切と考えられるためです。実際、英ポンド危機やアジア通貨危機をみると、結局はファンダメンタルズと市場の力には抗えず、外貨準備は無為に費消されてしまうだけであり、この観点からの外貨準備蓄積の有用性が乏しいことが示されています。あるいは、前項のような管理貿易のほか、外国資本の急速な流入と流出を避けるために、あらかじめ資本取引に制限をかけておくことも肝心でしょう。
  • 【自国通貨高抑制もしくは自国通貨安誘導】 これは、自国経済を輸出主導・外需主導で成長させるために、①輸出企業による輸出代金の換金(=米ドル売り/自国通貨買い)や、②経済成長期待に伴う外国投資家による直接投資や証券投資(=米ドル売り/自国通貨買い)に対して、米ドル買い/自国通貨売りで介入をし、為替相場の安定を図るものです。この経路による米ドルの需要こそ、米国から問題視されているものでしょう。

【Q6】どうやってドル高を是正するか?

マールアラーゴ合意によって、ドル高を是正する手段はなにか?

「それしかないだろう」と言われるかもしれませんが、マールアラーゴ合意では、外国の通貨当局が持つ、不要or不当な規模にまで蓄積された外貨準備(米ドル)を売却することによってドル高を是正することが考えられています。

マールアラーゴ合意は、「外国の通貨当局が、輸入決済に必要な金額分を除く、すべての外貨準備(米ドル)を売却することで、外国の輸出と雇用の増加および米国の輸出と雇用の減少に貢献してきた(とミラン氏が考えている)これまでの為替政策(米ドルの蓄積)を放棄することを確約する合意」と言い換えられます。

前節でも補足したとおり、外貨準備は自由市場においては本質的に不要なものとも考えられ、「海外通貨当局への外貨準備の売却要請」であるマールアラーゴ合意についても、トランプ政権の主題のひとつである「自由市場・非介入主義に立ち返れ」という主張の一部と解釈できます。

【補足Q】円のファンダメンタルズは「円安」だから、円安批判は不適当?

ここで、マールアラーゴ合意に基づく外貨準備の売却やドル安調整について、日本を例にとって、ひとつ問答を考えてみます。

たとえば、円の水準について、日本国内の専門家は「現在の日本は、貿易収支の赤字やサービス収支の赤字(≒いわゆるデジタル収支の赤字)が構造的であり、現状の円相場は決して極端に割安な水準ではない」あるいは「現在の円のファンダメンタルズは、円安・円売り方向であり、円買い・円高方向ではない。よって、マールアラーゴ合意によって、ドル安・円高を求められても、円のファンダメンタルズとは相容れない」と主張するかもしれません。

ミラン氏の主張を補足・外挿するなら、まず、次の点によって、そうした主張は否定されるかもしれません。すなわち、「現時点における外貨準備の積み上げは、現在まで続くドルのロング・ポジションであり、不要なロング・ポジションは解消せよ」という点です。

  • 過去において米ドルを不要or不当な規模にまで蓄積し、「その米ドルが今日まで保有されたままである」という通貨政策が問題にされているように筆者には見受けられなくもありません。たとえば、日本で言えば、財務省(旧大蔵省)と日銀はときおり「通貨の急激な変動を避ける」という名目で巨額のドル買い・円売り介入を実施してきました。その特定の時点では介入は認められるとしても、財務省(および旧大蔵省)は市場が落ち着いているときに、そのドルを売って円に戻すことをしてきたわけではありません。償還される元本は米国債に再投資をし、すべてではないにせよ、受取利息もまた米国債に投じられてきました。すなわち、「特別会計」が維持・拡大されてきました。
  • また、たいていは、米国の金利が円の金利よりも高く、同時にドルは過大評価されてきたため、ネットの受取利息は円ベースでプラスであり、それは、日本の富として蓄積されてきました。日本国内の専門家側の言い分では「米国債の再投資こそが米国債市場を支えてきたはずだ」となるかもしれません。他方で、ミラン氏の言い分を外挿すれば、「米国に借金を負わせてまで消費をさせ、自国企業の売上や利益、そして雇用を増やした上に利息まで取るのは何事だ」、加えて「(日本などは「米国債市場を支えてきた」というが)仮に、日本政府などが外貨準備資産である米国債から利息を取らなければ、その分、米国債の追加発行は減り、現下のように、利息が利息を呼ぶかたちで(=複利で)雪だるま式に膨らむ米国債の発行残高はもっと低かったはずだろう」となるでしょう。
  • 現時点における外貨準備の積み上げは、現在まで続くドルのロング・ポジションであり、不必要な水準まで蓄積された米ドルは、文字どおり不必要なために、これを解消するよう求められているものと理解できます。

もうひとつは、ミラン氏の主張からは離れるかもしれませんが、「(ふたたび、円を例に挙げれば)現在のファンダメンタルズは本当に円安なのか」という点も考えられるかもしれません。

  • 日本の経常収支は黒字です。すなわち、「円のファンダメンタルズは紛れもなく円買い・円高」です。もしかしたら、日本の通貨当局はミラン氏から、こう言われるかもしれません。すなわち、「日本の企業や投資家がドルを売らないために(=第1次所得収支が円転されないために)、日本の貿易収支の赤字とサービス収支の赤字が表に立ってドル買い・円売りが続いているからと言って、それは日本が自ら選択した結果として生じている円安である。言い換えれば、たとえ、日本に化石燃料がなく、プラットフォーマーがいないからといっても、日本企業が「上がり」の米ドルを売れば、おつりが出るはず=円高になるはずであり、現在の円安はファンダメンタルズというよりも、自作自演の産物に過ぎない。したがって、米国が日本の通貨当局による外貨準備の売却(=マールアラーゴ合意への参加)を猶予する理由には全くならない」といったものです。
  • 脱線すれば、最近、日本の為替アナリスト界隈でかまびすしい「第1次所得収支の外貨貯留」(プラス、「新NISAによる外貨資産投資ブーム」)は、日本人が自らを窮乏化させるための選択と言えるかもしれません。「近隣窮乏化策の近隣が近隣諸国ではなく、家族」といったイメージでしょう。ただし、そうした選択を他国が仕向けてきた可能性についても、われわれは検討しておかなくてはなりません。

以上をまとめると、日本の通貨当局は、「①過去に積み上げた外貨準備はその時々には必要であっても、投機は短期的なために、これを蓄積し続ける正当な理由はなく、売却すべきであり、②現在の円安や円売りは日本の企業や家計による選択の結果であり、言い換えれば、日本は貿易収支やサービス収支の赤字をカバーするだけのドルの所得を得ているが、それを使い惜しむ結果、円安やインフレになっているだけであり、それは米国の関知するところではない」と言われても不思議ではないかもしれません。


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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