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マールアラーゴ合意とはなにか③ 関税賦課と矛盾するマールアラーゴ合意は支離滅裂か(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2025/3/26 16:00 最終更新日 2025/3/26 16:00 米国・欧州 為替・金利 米金利 フィデリティ

※この記事はフィデリティ投信のWebサイトで3月19日に公開されたコラムの転載です

日本の40年債の利回りが2007年の発行開始以降、初めて3%に到達したそうです。30年債は直近水準が2.6%で、あと0.05%程度上昇すると、2004年8月以来の水準です。

現在、多くの市場参加者は、米国の外交や経済の動向にくぎ付けになっているようにみえます。筆者は引き続き、「皆が見ている方向に探し物はない。すなわち、答えは米国以外のところにある。本丸は円金利ではないか」と疑っています。言い換えれば、国内外のエリートたちが心待ちにしていた「日本のインフレこそが鬼門ではないか」と感じています。

引き続き、マールアラーゴ合意についてみていきます。

ここまでは、次の6つ(7つ)の疑問をカバーしました。

  • 【Q1】そもそも「マールアラーゴ」とは?
  • 【Q2】「マールアラーゴ合意」とは?
  • 【Q3】マールアラーゴ合意の目的は?
  • 【Q4】なぜ準備通貨の供給と安全保障は一体不可分なのか?
  • 【Q5】ミラン氏はドル高の理由をいかに捉えているか?(→【補足Q】外貨準備は必要なのか?)
  • 【Q6】どうやってドル高を是正するか?
  • 【補足Q】円のファンダメンタルズは「円安」だから、ドル安・円高調整は不当?

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さらにみていきます。

【Q7】米国は準備通貨供給国の座から降りるつもりなのか?

マールアラーゴ合意による外貨準備(米ドルおよび米国債)の売却やそのさまざまな影響を想像すると、「米国はついに準備通貨供給国の座から降りるつもりなのか」という疑問が生じるかもしれません。

もちろんのこと、ミラン氏、あるいは、トランプ政権の誰も、準備通貨としてのドルの地位を手放そうとは考えていません。

たとえば、トランプ氏は昨年末、BRICS諸国に対し、「我々はこれらの国々に対して、強力なドルに取って代わるような新たなBRICS通貨を作ったり、そのほかの通貨を用いたりしないとのコミットメント・確約を要求する。さもなければ、彼らは100%の関税に直面することになるだろう。そして、素晴らしい米国経済にモノを売ることに別れを告げることを予見すべきだ」と述べています(→ロビー活動が背景にあるとはいえ、同氏の仮想通貨支持とこうした発言とは矛盾するようにも思えます)。

脱線して筆者の考えを少し述べると、筆者は、米国の国際政治や財政面での現状、マールアラーゴ合意を突き詰めて考えるうち、世界経済はやはり、さらなる分断が避けられないと感じます。彼らはドルから離れるでしょう。われわれはドルから離れられないでしょう。そして、われわれは現在のシステムの対価を支払うことになるでしょう。

以下、マールアラーゴ合意による外貨準備売却に伴うインパクトについて、ミラン氏がどう見ているのかをみていきます(→スタイルを箇条書きに変更します)。

【Q8】準備通貨(ドル)の売りは、インフレを招くのではないか?

  • 確かにそうである。したがって、マールアラーゴ合意は、順序やタイミングが重要である。
  • まずは、関税によって税収を引き上げ(米国が提供する「安全保障の傘」や安全な貿易システムの負担をいくぶん公正化し)、【補足①】場合によっては関税引き上げによって景況感を悪化させて総需要をやや抑制し、【補足②】政府効率化省・DOGEが進めるコスト・利権のカットやロシア=ウクライナ戦争の停戦によって歳出を削減し、また、積極的な規制緩和で供給能力を増やし、原油増産などのエネルギー政策など実行した後に、マールアラーゴ合意は(もしそれが選択されるならば)その実施が検討されるべきだろう。
  • インフレについて考えれば、Gopinath(2015)は、ドルの、たとえば20%の下落がCPIインフレ率を0.6%~1.0%程度押し上げることを示している。
  • マールアラーゴ合意によるドル安調整は、本来は物価水準のシフトであり(補足:消費税のように物価を1度だけ押し上げるものであり)、インフレ率の上方シフトではない。
  • しかし、インフレ的な要素がほかにいくつかあるときに、ドル安調整を実施してしまうと、FRBは「企業の値上げが持続的になり、インフレ率の上昇が続いていく」と考え、テイラー・ルールに沿った利上げで対処してしまう可能性がある。
  • 利上げによる金利上昇は当然ながら、米国の家計にとっては負担である。したがって、これを避けるためにも、インフレを抑制したあとにマールアラーゴ合意を進めるべきだろう。
  • 結論に戻れば、マールアラーゴ合意はタイミングを見極めることが重要だろう。

【Q9】関税はドル高を招き、ドル安調整に反するのではないか?

  • たしかに関税によってドル高になるだろう。しかし、そのドル高は関税によるインフレを抑制するために必要である。
  • 繰り返して強調するが、マールアラーゴ合意は順序とタイミングが重要である。まずは、インフレと市場金利を抑制し、その後にマールアラーゴ合意は実施されるべきである。
  • 重要な認識を共有しておくと、マールアラーゴ合意によって世界の貿易・金融システムを再構築できるパス(道筋)はあるが、そのパスは狭い。したがって、慎重な計画、正確な実行、そして悪影響を最小限に抑えるための措置が必要である。

【Q10】ドル安調整は、民間部門のキャピタル・フライトを呼ぶのではないか?

  • たしかにそのリスクはある。
  • まず、この合意に参加するのは外国の通貨当局など公的なドル建て債券の保有者にとどまり、民間の機関投資家や個人投資家は参加しないだろう。
  • 民間の投資家はこの合意による期待リターンの変化に基づき投資判断を下すだろう。
  • ①債券については、ドル安による損失がインカムゲインを上回ってトータルリターンがマイナスになることが予見されれば(あるいは、【補足】単に本国の自国通貨建ての債券のトータルリターンを下回ることが予見されれば)、民間投資家のドル建て債券の売りが加速する可能性がある。
  • さらに、ドル安がインフレにつながると予見されれば、さらなる金利上昇が予見されて、民間投資家によるドル建て債券の売りが膨らむ恐れもある。
  • (【補足】別途、米国債の価格下落に伴う金利上昇が続けば、やがては、1980年代前半のように高金利がドル資産の魅力となり、ドル資産への回帰を促し、ドル安調整を不十分にするかもしれない。)
  • ②株式については、金利上昇が株価収益率・PERの低下にはつながるが、ドル安は米国の多国籍企業・優良企業の国外利益を米ドル・ベースで押し上げる。【補足】また、インフレによる売り上げ増も名目利益を押し上げる可能性もある。
  • これ(これら)は米国株式からの逃避を一部和らげるかもしれない。

【Q11】準備資産(米国債)の売りによる金利上昇はどう抑制するのか?

  • たしかに、米国の金利上昇はリスク要因である。プラザ合意時の米国の公的債務GDP比率は40%程度であったが、現在は120%であり、金利上昇のリスクは当時よりも格段に大きい。
  • その認識の上で、金利上昇を抑制するための方策はいくつか考えられる。
  • ①金利上昇リスクへの対処に関する提案のひとつがPoszar(2024)である。
  • Poszar(2024)は、外国中銀が外貨準備(米国債)の大部分を売却した後に残す必要最小限の外貨準備(米国債)について財務省が買い戻し、100年満期の割引*米国債と交換することを提案する(→*ミラン氏によるPoszar(2024)の引用箇所では「100年債」と書いてあるのみであり、「割引債」とは書いていませんが、マールアラーゴ合意の目的のひとつが米国の公的債務を持続可能にすることと考えると、「割引債」と考えることが適当に思えます)。
  • ②金利上昇抑制のためのもうひとつの手段として、FRBの協力を得ることも考えられる。FRBのマンデートは2つではなく、3つである。すなわち、最大雇用、物価の安定、そして適度な長期金利である。この3つ目の点に鑑みれば、FRBは金利上昇を和らげる手段を有している(→後述)

(テクニカル)外貨準備の大半売却と、残す米国債の「100年割引債への交換」が金利上昇を防ぐ理論的背景

(本節は筆者による補足です。飛ばしても大丈夫です)

なぜ、この「100年満期の割引債への入れ替え」によって、金利の上昇を防げるのかを考えてみましょう。

  • たとえば、ある外国通貨当局が、100億ドルの外貨準備を持っており、その外貨準備のすべてを表面利率4%、年2回利払い、利回り4%、残存3年の米国債(=「3年物の利付国債」)で保有していると仮定します。この米国債のデュレーション*は約2.8年です(→売却を想定しているため、利回り1%上昇時の価格変化率を計算。ちなみに、0.01%上昇時の価格変化率を100倍してもデュレーションはほぼ同水準であり、コンベクシティは小さい)。
  • *デュレーション(修正デュレーション)とは、債券価格の金利感応度のことで、投資家(=金融市場)が取っている金利リスクのことです。たとえば、デュレーションが「5年」の債券は、金利が1%上昇・低下すると、債券価格が5%下落・上昇する債券を指します。長期の債券ほど、デュレーションは長く、金利リスクは大きくなります。
  • いま、この外国通貨当局が、100億ドルの外貨準備(米ドル)のうち、①95億ドルを売却して自国通貨を買い、すなわち、5億ドルのみを貿易決済のために外貨準備(米ドル)として残し、②外貨準備(米ドル)として残した5億ドルを(「3年物の利付国債」から)、表面利率ゼロ%、利回り7%、残存100年の米国債(=「100年物の割引国債」)に入れ替えると仮定します。利回り7%の100年割引債のデュレーションは年2回複利計算で約163.4年です(→買い入れを想定しているため、利回り1%低下時の価格変化率で計算。ちなみに、0.01%低下時の価格変化率を100倍するとデュレーションは97.1年であり、コンベクシティが大きい≒接線で想定される価格上昇(下落)率よりも実際の価格上昇(下落)率は大きい(小さい))。

すると、

  • 100億ドル分の「3年物の利付国債」の売りから生じるデュレーションの売りは、「マイナス100億ドル×2.8年」です(→95億ドル分の現物売却と、5億ドル分は100年割引国債への交換のための財務省への受け渡し)。
  • これに対して、5億ドル分の「100年物の割引国債」の買い(=3年物の利付国債との交換)から生じるデュレーションの買いは「プラス5億ドル×163.4年」(もしくは「プラス5億ドル×97.1年」)です。

すなわち、この例で言えば、債券市場が売り圧力を受ける金利の絶対リスク量(=売却金額×デュレーション=売却されるダラー・デュレーション)と、債券市場が買い圧力を受ける金利の絶対リスク量(=買入金額×デュレーション=購入されるダラー・デュレーション)とを比べると、後者が大きいことがわかります。

まとめると、外国の通貨当局が保有する短期の割引債(Tビル)や中期の利付債の大部分を売却させ、残った少額の中短期国債を100年割引国債と交換する、言い換えれば、短期の割引債(Tビル)や中期の利付債の大量売却による「デュレーションの売り」を、100年割引国債の少額購入による「デュレーションの買い」で相殺する、これが、外国通貨当局による外貨準備の売却にも関わらず、米国債の利回りが上昇しないと想定される理論的なアイデアです。

この100年割引国債への交換の効果は2つ考えられます。

  • ①企図どおり、米国財務省は利払い費を削減することができます。それは米国債の信用力向上につながるほか、米国が提供する「安全保障の傘」の持続可能性を高めると考えられます(→トランプ氏のBRIC諸国への発言にしたがうと、準備通貨としてのドルの地位を維持するためには「安全保障の傘」を維持する必要があるでしょう)。
  • ②イールドカーブを考えると、短期債や中期債については売り圧力が生じて、短中期ゾーンの金利上昇を促すでしょう。他方で、超長期ゾーンに買いが入ることで、長期金利の低下を促す可能性があります。すなわち、イールドカーブにはフラット化圧力が生じます。これにより、米国財務省にとっては(市場消化が必要な民間保有分について)長期債を発行するインセンティブが高まります。長期債でのファンディングは前項1点目に挙げた信用力と「傘」のさらなる強化につながると考えられます。

【Q12】外貨準備を100年債で保有する論理性はあるのか?

  • 【補足】覇権国通貨の準備については100年債で保有することが正当化されうる。言い換えれば、マールアラーゴ合意の一部である100年割引国債への交換は、「金利上昇リスクを防ぐため」というテクニカルな要因がその主たる理由ではない。
  • Poszar(2024)は、覇権国が安全を保障するセキュリティ・ゾーンは資本財であるため(⇒【補足】短期や中期で費消されてしまう消費財ではなく、長期に使用される財であるため、たとえば①民間企業における資産と負債のマッチングや、②財政学の受益者負担の原則で考えると)短期や中期の国債ではなく、100年満期などの超長期の国債でファイナンスされることが最善である(“best funded”)と主張する。

【補足Q】Poszar(2024)が提示するアイデアは?   

Poszar(2024)は、第2期トランプ政権の幹部となる可能性のある人物たち(当時)の発言を次のようにまとめる。

  • ①第2期トランプ政権は、明示的に、「米国の安全保障の傘の提供」と「国際金融システム」とを結び付ける考えを採用している。
  • ②米国以外の諸国が米国債の金利減免で合意することは、米国の「安全保障の傘」を維持するために効果的である(⇒それは、米国以外の諸国にとってのメリットでもあろう)

また、第2期トランプ政権の幹部となる可能性のある人物たちの発言を次のマールアラーゴ合意としてまとめている。すなわち、

  • ①米国が、自身を中心とする同盟諸国・地域の安全を保障するセキュリティ・ゾーン(安全保障の傘)は、米国が提供する公共財であるため、セキュリティ・ゾーンの「内部」にいる国々は(国民が防衛支出を負担するのと同様に)米国債を購入することで公共財のファイナンスを付けることが必要である(≒ごく普通である)。
  • ②米国が安全を保障するセキュリティ・ゾーンは、資本財であるため(⇒【補足】短期や中期で費消されてしまう消費財ではなく、長期に使用される財であるため、たとえば民間企業における資産と負債のマッチングや財政学の受益者負担の原則で考えると)短期や中期の米国債ではなく、100年債でファイナンスされることが望ましい(≒ごく普通である)。
  • ③(日常、見かける)セキュリティ・ゾーンはその周りに有刺鉄線が張り巡らされるものであることを思い出すと、外国の通貨当局が外貨準備として保有する短中期の米国債を、100年債との交換に拒否する場合には、セキュリティ・ゾーンから締め出す。

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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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